前回の「狂った態度を受け入れる」の続編。
『いやな気分よ、さようなら』から怒りについてシーリーズで要約してみたい。
誰にでも怒りはあるもの、その辺りをどのように緩和するか、多分、恐らく、皆さんにも有益な部分はあるはずだから、参考になればと期待を込めて。
本シリーズはこのように分割したい。
〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法
デビッド・D.バーンズ 山岡 功一 夏苅 郁子
David D. Burns 佐藤 美奈子 林 建郎 小池 梨花
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内容(「BOOK」データベースより)
認知療法の気分改善効果は、驚くべきものである。うつ病に対して、抗うつ薬と同等か、それ以上の治療効果があると証明された初めての精神療法、それが認知療法である。本書は、人生を明るく生き、憂うつな気分をなくすための認知療法と呼ばれる最新の科学的方法を示す。抑うつ気分を改善し、自分の気分をコントロールする方法を身につけるための最適の書。
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◆洗練された操縦法
あなたは自分の期待を買え、怒ることを留めると自分が弱虫になるのではないかと恐れたり、他人に利用されていると思っているのではないか?
自分の欲しいものを手に入れる最も洗練されたトレーニングを受けていないので、こういう心配が起こるもの。
あなたは人に要求しなければ何も得られないと思っていないだろうか?
代わりの方法があるのだろうか?
優れた心理学者であるゴールドシュタイン博士の「妻による夫の条件付け」の研究をみてみよう。
欲求不満の妻たちに関するこの研究で、夫から欲しいものを手に入れようとしてかえって破壊的な方法を妻がとっていることに博士は気付いた。博士は、研究室で細菌や食物やねずみまで含めた全ての生き物に影響する最もか科学的な方法を研究し、気紛れで野蛮な夫たちにこの基本原理を当てはめることができるのだろうかと考えたのだった。
結論は簡単。
良くない行動を罰する代わりに良い行動を誉めればいい。罰は嫌悪と憤りを引き起こし、阻害と回避をもたらす。妻たちのほとんどが自分の思うようにしようとして、夫を罰するという間違いを犯していた。このような妻たちの行動を望ましい行動に着目する報酬モデルに換えることにより、博士はドラマチックな変化を経験した。
ゴールドシュタイン博士の扱った妻たちは特別ではない。我々がよく陥る普通の結婚の持つ問題に陥っていただけであった。つまり長い間、夫の余計な行動にばかり目を向けてきたのだった。ここで、夫から望ましい反応を得るためには、大きな方針の変換が必要であった。そのため夫婦間のやり取りを細かく科学的な方法で記録し続けることにより、彼女たちは自分の反応をコントロールできるようになった。
ゴールドシュタイン博士のある患者がどうしたかを示そう。
長い争いの末、妻Xは夫と別れた。夫は他の女性の元へ去っていった。二人の関係は基本的には虐待と無関心が中心だった。表面的には夫はほとんど妻をかまわないかのようであったが、それでも夫は時折妻に電話し、彼女に気を遣っているようだった。彼女はこの夫の気持ちを育むか、さらに不適切な反応を続けてこの気持ちを潰してしまうのか決断をしなくてはならなかった。
妻Xは自分のゴールを決めた。夫を取り戻すことができるかやってみようとしたのだった。最初の一里塚は夫との接触を増やすことができるかどうか、というものだった。彼女は厳密に夫との電話と訪問の回数との間隔を記録し、冷蔵庫のドアにグラフで示した。そして自分の行動(刺激)と夫からの接触の頻度(反応)との関係を注意深く検討した。
彼女は自分からは夫に連絡しなかったが、夫からの電話には積極的に愛情を込めて対応した。彼女の考えは率直だった。夫の嫌な点を見つけて反応する代わりに、好きな点を強化するようにした。彼女が使った報酬は夫の好む全てのこと-賞賛、食べ物、セックス、愛情-などであった。
彼女は夫の数少ない電話に陽気に、積極的にそしてお世辞でもって対応し始めた。彼女は夫を元気付け喜ばせた。夫の言うことに対しては何によらず批評、議論、要求や敵対を避け、武装解除法(本書:第六章に掲載)を使った。最初のうちはすべての電話を5分から10分で切り、議論や夫をうんざりさせるような会話を避けた。夫の反応は抑圧されたり無視されたりるすることがなくなり、この変化に夫は喜んだ。
これを数回繰り返すと夫の電話はどんどん増えてきた。電話は夫にとって楽しみになった。彼女は科学者が実験用ねずみの行動をグラフにするように、夫の電話回数をグラフに記録してみた。電話回数が増えるに従って彼女は更にやる気になりいらいらも多少和らいできた。
ある日、夫が訪れると彼女のプラン通りに「嬉しいわ。あなたのために新しいキューバ産の葉巻を用意したところなの。あなたの好みの高級品よ」と夫を迎えた。実際いつ夫が訪ねてきてもよいように一箱葉巻を用意してあった。夫の訪問が実際増えていることに気付いていた。
同様に、夫の行動を強制するよりも報酬を使うことで変え続けた。夫がその女と別れることに決め、戻ってよいかと尋ねたときに自分の成功を確信した。
著者はこれが人に影響を与えるただ一つの方法だといっているわけではない。これはちょっとしたスパイスであって、メインディッシュでもフルコースでもない。これがうまくいくという保証もない。時には事態は取り返しが付かず、思い通りにならないこともあるだろう。
いずれにしろ報酬システムを試してみて欲しい。驚くほどの成功に喜ぶかもしれない。人の気持ちを自分の望むように向けられることに加えて、他人の悪い面に目を向けるより、良い面に気付くことで自分の気持ちも楽になっていくのだから。
次回は怒りシリーズ、『「すべき思考」を止めること』を考えてみよう。
(xxx)
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