脳内の働き(3)『抗うつ薬-MAO阻害薬-』

2012
1/27
金曜日

以下の著書から『うつ病ではどこの具合が悪くなるのか?』をピックアップしていこう。

シリーズ話題ですので、順追って一読頂くことをお勧めします。

脳内の働き(1)
脳内の働き(2)

〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法
デビッド・D.バーンズ 山岡 功一 夏苅 郁子
David D. Burns 佐藤 美奈子 林 建郎 小池 梨花

4791102061

内容(「BOOK」データベースより)
認知療法の気分改善効果は、驚くべきものである。うつ病に対して、抗うつ薬と同等か、それ以上の治療効果があると証明された初めての精神療法、それが認知療法である。本書は、人生を明るく生き、憂うつな気分をなくすための認知療法と呼ばれる最新の科学的方法を示す。抑うつ気分を改善し、自分の気分をコントロールする方法を身につけるための最適の書。

◆簡単な歴史

1950年代初期、イプロニアジトと呼ばれる新しい結核治療薬の検査中に、偶然、この薬を投与された患者の多くに著しい気分の高揚が見られたことに注目を集めた。その結果、イプロニアジトには抗うつ作用特性があるのではないかと近代的科学研究が加速的な進展を遂げた。

イプロニアジトがMAO酵素(モノアミン酸化酵素)を阻害する作用をもつこの薬は、MAO阻害薬(略してMAOI)と分類されることになった。その後、イプロニアジトとよく似た化学構造をもつMAO阻害薬が、幾つか開発された。

 1.フェネルジン(Nartil)
 2.トラニルシプロミン(Parnate)
  →1,2共米国で今日も使用
 3.セレギリン(エフピー)
  ・米国ではパーキンソン病治療薬として承認
  ・これらは気分障害の治療にも時々利用される新薬

現在MAO阻害薬は、もはやかつてほど頻繁に処方されなくなっている。特定の食べ物と一緒に服用すると、危険な血圧の上昇が起きる可能性があることや、特定の薬と併せて服用すると中毒反応を引き起こすこともあるため。

こうした危険性があることから、より新しく、安全性の高い抗うつ薬が開発された。これらの新しい薬の作用の仕方は、MAO阻害薬とは大きく異なる。とはいえ、うつ病の患者のなかには、他の薬では効果がなくても、MAO阻害薬なら実に有効に作用する人もいる。

イプロニアジトの発見により、うつ病の生化学研究は新たな時代の幕を開けることになった。MAO阻害薬の作用の仕方を解明すべく、熱心な研究が重ねられた。MAO阻害薬が脳の辺縁系領域に集中的に存在する、セロトニン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ドーパミンの3つの化学伝達物質の崩壊を防ぐことは知られていた。そこで、これらの物質のひとつ、あるいはそれ以上の欠陥がうつ病を引き起こす原因であり、これらの物質の濃度を引き上げることで、抗うつざいはその効果を発揮するのではないか、という仮説が立てられた。

◆復習
ここで、図1.1~図1.3を復習してみると、
シナプス神経が発火すると、セロトニンがシナプスに放出される。


シナプスを渡ったセロトニンは、シナプス神経の受容体に付着する。


その後、セロトニンは再びシナプス神経へと泳いで戻ってくる。


このシナプス神経でセロトニンはポンプによって神経内部に取り込まれ、MAO酵素がこれを破壊する

◆MAO酵素がセロトニンを破壊するのを阻止したとしたら、はたしてどのようになるのか?

シナプス神経は、休みなく新しいセロトニンを生産し続けているので、セロトニンはこの神経内に蓄積れていくことになる。セロトニンがどこかに破棄されていない限り、神経内のセロトニン濃度はどんどん上昇し続けるだろう。そして、シナプス神経が発火するたびに、通常量をはるかに上回るセロトニンが、液体で満たされたシナプスへと放出されることになる。シナプス内の過剰なセロトニンは、シナプス神経を予想以上に刺激する。この化学変化は、ちょうどラジオのボリュームを上げることに相当すると考えればいいだろう。MAO阻害薬のこのような抗うつ薬作用をわかりやすく示したのが図1.4.である。



これが、MAO阻害薬が気分の高揚をもたらす理由なのだろうか?
その可能性はあり得るだろうし、仮設ではこれこそまさに、これらMAO阻害薬の作用の仕方であるとされている。

調査研究でも、これらのMAO阻害薬を人間、または動物に投与すると、脳内のセロトニン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ドーパミンの濃度が上昇することが確認された。しかしながら、これらの生体アミンのいずれかの上昇が抗うつ効果を生むのか、それともこれらの薬が脳内で及ぼす何か別の作用からその効果が得られるのか、確かなことはわかっていない。

これらMAO阻害薬がなぜ、またどのようにして効果を発揮するのか?
気分の高揚はあたしてシナプス後神経の過剰なセロトニンの結果だろうか?
脳内の他の系統への作用によるものではないだろうか?
それとも何か別の説明が可能だろうか?
シナプス内の過剰なセロトニンすべてに、数週間後にシナプス後神経のセロトニン受容体のダウンレギュレーションが、抗うつ作用に相当するのだろうか。
(セロトニンの枯渇がうつ病の原因であると考える研究者がいる一方で、セロトニンの脳内における活性の高まりが原因である、とする研究者もいる)

さしあたり、重要なのは、これらの薬がその作用の仕方、理由の如何に関わらず、うつ病の治療に効果を発揮することはどうやら確からしい、ということ。


次回は脳内の働き(4)『抗うつ薬はどのように作用するのか』から、三環系、SSRIの仕組みについて要約していきたい。















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