脳内の働き(2)『うつ病ではどこの具合が悪くなるのか?』

2012
1/26
木曜日

以下の著書から『うつ病ではどこの具合が悪くなるのか?』をピックアップしていこう。

昨日、掲載した脳内の働き(1)の継続シリーズなので、こちらを先に読まれたほうが理解が進みます。

〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法
デビッド・D.バーンズ 山岡 功一 夏苅 郁子
David D. Burns 佐藤 美奈子 林 建郎 小池 梨花

4791102061

内容(「BOOK」データベースより)
認知療法の気分改善効果は、驚くべきものである。うつ病に対して、抗うつ薬と同等か、それ以上の治療効果があると証明された初めての精神療法、それが認知療法である。本書は、人生を明るく生き、憂うつな気分をなくすための認知療法と呼ばれる最新の科学的方法を示す。抑うつ気分を改善し、自分の気分をコントロールする方法を身につけるための最適の書。

うつ病ではどこの具合が悪くなるのか、
原因は解明されていない。
仮説は数多くあるが証明されていない。
というのが事実。

一本の神経、または複数の一連の神経系の発火が、いったいどのようにして思想や感情に変換されるのかはわかっていない。

前回のブログ(脳内の働き(1))で図1.1、図1.2、図1.3を理解していただければ、取り敢えず現在いわれている説を理解することは簡単なこと。







脳内の神経が、神経伝達物質という科学的メッセンジャーを使って、互いにメッセージを送り合っていることについては、前回の説明したとおりだが、脳の辺縁系では、セロトニン、ノルエピネフリン * (ノルアドレナリン)、ドーパミンの3つが関連しているのだろうというのが現在の仮説である。

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* エピネフリンという名称は、現在ではノルアドレナリンもエピネフリンも同じ物質のことを指しているが、ヨーロッパでは高峰らの功績を認めて「ノルアドレナリン」の名称が使われているのに対して、アメリカではエイベルの主張を受けて、副腎髄質ホルモンを「エピネフリン」と呼んでいる。
現在、生物学の教科書・論文では世界共通でノルアドレナリンと呼んでいるのに対して、医学においては世界共通でエピネフリンと呼ばれている。「生体内で合成される生理活性物質」という捉え方と、「医薬品」という捉え方の違いからだが、日本では医薬品の正式名称を定める日本薬局方が改正され、2006年4月より、一般名がエピネフリンからノルアドレナリンに変更された。(Wikipedia)



【説1】うつ病が、これらの脳内の生体アミン伝達物質の一つ、あるいは複数が欠乏することが原因で、躁病(軽度の多幸感、上機嫌)は、逆にこれらが過剰になったことが原因で起る、と唱える説

【説2】うつ病と躁病において最も重要な役割を担うのはセロトニンである、と唱える説

【説3】うつ病と躁病においてノルエピネフリン(ノルアドレナリン)やドーパミンの異常も何らかの関与する、と唱える説。

これらの生体アミン仮説から、抗うつ薬はうつ病の患者のセロトニン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ドーパミンの濃度、活性を引き上げることによって、効き目を発揮するのかもしれない、と推論されている。

◆図1.1で、セロトニンなどの科学的メッセンジャーが、シナプス神経から枯渇してしまったとしたらどうなるか?

シナプス神経はシナプスを通して、信号をシナプス神経へ適切に送信することが出来なくなってしまう。
脳内の回路は接続が悪くなり、その結果、精神的あるいは感情的に活動が停止した状態になる。

感情の停止状態のひとつ(セロトニン欠乏)が原因で起るのがうつ病、
別のタイプの停止状態(セロトニン過剰)が原因で起こるのが躁病と考えられている。

最近のアミン仮説は大幅に変遷しており、セロトニンの欠乏や過剰がうつ病や躁病を引き起こす原因である、とはもはや信じられないとする研究者もいる。
その代わりに考えられているのは、神経膜錠の受容体のひとつ、ないし複数の異常が、気分異常を引き起こすのではないか、という説。

◆図1.2のシナプス神経上のセロトニン受容体に何らかの異常がある、と仮定してみよう。

このとき神経と神経の間の伝達はどのようになるのだろうか?
例えばシナプスには十分な量のセロトニン分子があっても、シナプス神経が発火した際に、シナプス神経も、それと一致する形で発火することが出来なくなってしまう可能性もある。逆に、セロトニン受容体の数が過剰にある場合は、セロトニン系における過活動という反対の影響を及ぼすことが考えられる。

現時点で少なくとも15種類のセロトニン受容体が、脳内に存在していることが確認され、さらに多くの種類の受容体が日々、確認されてきている。恐らくこれらの受容体は全て、それぞれ異なる作用をホルモン、感情、および行動に及ぼすと考えられている。これらの数種の異なる受容体がいったいどのような働きをするのか、また、これらのいったいどの受容体の異常がうつ病や躁病の発症に原因的に関わるのか、ということについては、いずれも現在のところ完全に解明されていない。

セロトニン受容体が脳の機能に果たす作用に関しては、まだきわめて限られたことしか明らかになっていないが、シナプス神経の受容体の数が抗うつ薬に反応して変化する、という証拠がある。たとえば、神経と神経の間のシナプスにおけるセロトニンの濃度を引き上げる薬を投与すると、シナプス神経膜上のセロトニンの受容体の数は、数週間後には減少するだろう。このようにして神経は過剰な刺激を補正しようとしている。
→いわば信号のボリュームを下げようとしていると考えられる「ダウンレギュレーション(下向き調整)」と呼ばれている。

◆逆に図1.1のシナプス前神経からセロトニンを枯渇させたとしたらどうだろうか?

この場合、シナプスへ放出されるセロトニンの量はずっと少なくなり、数週間後、シナプス後神経は、セロトニン受容体の数を増やすことによって、これを補おうとするかもしれない。神経は、信号のボリュームを上げて、よく聴こえるようにしている。
→この種の反応は「アップレギュレーション(上向き調整)」と呼ばれている。

要するに、
「アップレギュレーション」とは、「より多くの受容体」(ラジオのボリュームを上げるようなもの)、「ダウンレギュレーション」とは、「より少ない受容体」(ラジオのボリュームを下げるようなもの)、
といえる。

抗うつ薬が効果をあげるまでには、通常、数週間以上かかるとされている。
その理由を解明しようと、研究が重ねられている。
こららの薬の抗うつ作用をダウンレギュレーションによるものではないか、と考える研究者もいる。
当初、抗うつ薬が作用するのは、これらの薬がセロトニンを強化するからだ、と提唱されていたが、そうではなく逆にこれら抗うつ薬が数週間かけて、セロトニン系を弱めることが理由ではないか、ということを暗に示唆している。

したがって、抗うつ薬は、数週間かけてセロトニン系を弱め、この状態を矯正するのではないかと考えられている。

これらの説もきちんと確立され、正しさも実のところ、まったく証明されいない。
現在解明されている脳のモデルが、非常に初歩的なものに過ぎないのである。
ひょっとすると、うつ病の原因が科学的伝達物質や受容体とはまったく無関係な問題であ可能性もない、とは言えない。

ついつい「ハードウェア」(先天的な科学的不均衡など)に目を向けがちだが、
実は、「ソフトウェア」(後天的に学習した否定的な思考傾向など)に原因があるかもしれない。

今回はここで区切り、次回は脳内の働き(3)『抗うつ薬はどのように作用するのか』から掘り下げてみよう。

















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