脳内の働き(1)<シナプスとは何ぞや?>

2012
1/25
水曜日

以下の著書から『脳内の伝達物質の働き(シナプスとは何ぞや?)』をピックアップしていこう。

〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法
デビッド・D.バーンズ 山岡 功一 夏苅 郁子
David D. Burns 佐藤 美奈子 林 建郎 小池 梨花

4791102061

内容(「BOOK」データベースより)
認知療法の気分改善効果は、驚くべきものである。うつ病に対して、抗うつ薬と同等か、それ以上の治療効果があると証明された初めての精神療法、それが認知療法である。本書は、人生を明るく生き、憂うつな気分をなくすための認知療法と呼ばれる最新の科学的方法を示す。抑うつ気分を改善し、自分の気分をコントロールする方法を身につけるための最適の書。





図1.1の2本の神経の接合部を『シナプス』という。



それぞれ、左側の神経は「シナプス神経」、右側の神経は「シナプス神経」と呼ばれる。
図中の『シナプス』を挟んで、神経の終わる端の部分を「シナプス神経」、神経が始まる部分を「シナプス神経」と呼んでいる。

シナプシスを横断してやりとりされるこの電気信号の伝達は、脳の仕組みを理解する上で大変重要となる。

左側のシナプシス前神経と右側のシナプス神経との隙間には、液体で満たされている。
  (神経科学の発達史上、画期的な発見)

神経の電気的刺激はシナプスを飛び越えるにはあまりにも弱すぎる。
例えるのなら、「神経」は川の向こう岸に渡り着きたいのに、あいにくかなりの深さで、周囲には橋もなく、川幅も広かったとしよう。

このために「神経」は、水泳選手を派遣して、メッセージをこの水泳選手に託すようなもの。

この水泳選手は「神経伝達物質」と呼ばれる化学物質で、図1.1では『セロトニン』と呼ばれる神経伝達物質が使われる。



図1.1でシナプス神経が信号を発火すると、セロトニンの小さな箱が、シナプスの中に放出される様子を描いている。放出された科学的なメッセンジャーたちは、液体で満たされたシナプスを「泳いで」渡る。
 (このプロセスを「拡散」と呼ぶ)

こうしてシナプスの反対側へ渡ったセロトニン分子は、シナプス神経にある「受容体」に付着し、図1.2にあるようにシナプス神経に発火を命じる信号を発することになる。

※それぞれの神経の種類によって、使用される神経伝達物質は異なる。脳内には、このような神経伝達物質が非常にたくさん存在し、その多くは私たちが摂取する食物に含まれるアミノ酸から作られていることから(科学的には、「生体アミン」に分類される)、これらのアミン神経伝達物質と呼ばれるこれらの脳内の化学的なメッセンジャーの役割を果たす。

辺縁系領域(感情)に存在するアミン神経伝達物質には、
 ・セロトニン
 ・ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)
 ・ドーパミン

の3つがある。

これらの3つの神経伝達物質は、数多くの精神病障害の発症に関わると考えられ、神経医学者らによる熱心な研究が行われてきた。うつ病や躁病にこれらの科学的伝達物質が関わる、という仮説はそれらの名称にちなみ、”生体アミン仮説”と呼ばれることがある。

それでは、この科学的メッセンジャーは、シナプス神経に付着してから、どのようにその神経を発火させるのだろうか?

ここでは仮に、シナプス神経にある科学的メッセンジャーが、セロトニンとして話を進めよう。
 (これら3つの物質はいずれも皆、同じように作用するのでどれを選んでも構わない)

シナプス神経の表面には、「セロトニン受容体」と呼ばれる小さな領域があり、これらの受容体は、正しい鍵がないと開かない錠のようなものと考えればよい。受容体は、神経の表面を覆う膜の上にある。これらの神経膜は、自分たちの身体を覆う皮膚のよなもの。

それでは、ここでセロトニンをシナプス神経の鍵と考えてみよう。
実際の鍵と同様、セロトニンもそれ独自の形を持っているからこそ、正しく作用することができる。シナプス液の中には、他にもたくさんの化学物質が浮遊しているが、これらは正しい分子の形をしていないため、セロトニン錠を開けることができない。鍵が鍵穴にぴったりはまると鍵が開くことになる。そして、これが次の化学反応の引き金となり、シナプス神経を電子的に発火させるようになる。神経が発火すると、セロトニン(鍵)は、シナプス神経の受容体(錠)から解き放たれ、再びシナプス液の中に戻る。



そして最終的に図1.3にあるように、シナプス神経へと「泳いで」戻ることになる。
 (この過程も”拡散”と呼ばれる)

こうしてセロトニンは、その役割を果たし終えたが、シナプス前神経は、それを除去する必要がある

さもないと、役割を終えたセロトニンがシナプス内をさまよい、再びシナプス神経に戻って神経を刺激しかねない。このようなことになると、シナプス神経はそれを新たな刺激と捉えて、再び発火する恐れがあるから、混乱が生じる恐れがある。

この問題を解消するため、シナプス神経にはポンプが備わっている。
役割を終え、泳いで帰ってきたセロトニンは、シナプス神経の表面の受容体(もう一つの「錠」)に付着し、図1.3にあるような「再取り込みポンプ」または「膜ポンプ」と呼ばれる仕組みによって神経へと送りも戻される。

セロトニンは、ポンプの作用によって内側に戻された後、シナプス神経によって再利用されることもあるが、次の電気的信号に備えて、既にに十分な量のセロトニンが確保されている場合は、余分なものについては破棄されることになる。

シナプス神経が、このようなセロトニンを破棄する過程は、「代謝」(ある化学物質を別の科学物質へ変えることを意味する)と呼ばれる。

この場合、セロトニンは、血流中に吸収される化学物質に変えられる。
神経の中に存在して、この作用を行う酵素をモノアミン酸化酵素(略してMAO *)と呼ばれる。

MAO酵素は、セロトニンを「5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA) **」という新しい科学物質に変容させる。
単にこれは「セロトニン老廃物」と考えてもらって構わない。

5-HIAAは脳を離れ、血流によって肝臓に運ばれ、肝臓は血液から5-HIAAを取り除き、膀胱へと送られる。
そして、最終的に、5-HIAAは尿と一緒に体内から排出される。

これでセロトニンの循環は終わる。

もちろん、シナプス神経は、神経の発火に必要な新しいセロトニンを継続して作り出し、全体的なセロトニンの量が枯渇しないよう供給していく必要がある


次回は、「うつ病ではどこの具合が悪くなるのか」、最初にMAO阻害薬の仕組みについてピックアップしていこう。


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* モノアミン酸化酵素(monoamine oxidases, MAO, EC番号 1.4.3.4)はモノアミン神経伝達物質の酸化を促進させる酵素群の総称(Wikipedia)


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** 5-ヒドロキシインドール酢酸、5-Hydroxyindoleacetic acid(5-HIAA)
尿中に排泄される、セロトニンの分解産物。セロトニンはホルモンのひとつで、体の多くの組織に高濃度で存在する。カルチノイドという腫瘍はセロトニンと5hiaaを過剰に作るため、これらの物質の尿中濃度を測定することでカルチノイドの検査が可能になる。



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