【上巻】浅田次郎氏の作品はそこそこ読ませていただいている。読売新聞連載の単行化ということもあり、話のメリハリや、反復した語り(解説)となっていて、読み手を意識した小説である。上巻を読み終え、一人として悪人が出てこない。読者(僕の場合は)として全くストレスはないに等しい。心地よい。下巻では玄蕃が何者で何して破廉恥罪となったのか、乙次郎の道中を通じての彼の成長、兄弟や家族との融和が語られるのは自明の理といえるだろう。
【下巻】如何せん、ハッピーエンドとなってほしくてもそうならないのが「常」であって、玄蕃が問う「武士の世は」理不尽で、階級的で、時には威圧的で、戦国の世から役目はがらりと変わっていながら、大方の人が気づいても気づかぬふりをする。世襲やシキタリにガンジガラメ。憤懣やるかたない「武士の世」に一計を投じた玄蕃の生きざまが庶民的であり、男気がある。面倒みよく、ほうってはおけないお節介者、それと身分とのギャップがよい風味を醸し出しているのではないか。いい小説でしたね。
|