原書は、Birdsong, Sebastian Faulks(1993)。
上巻：引き込まれながら読んだ。禁断とも言えないまでも秘密裏に重ねるスティーヴンとイザベルの密事。抑圧された中でダムが一騎に放水するような猛々しい愛の描写はすばらしい。羨ましくもある。このような体験はすべきなんだろうね。そのスティーヴンが6年後の第一次大戦、前線尖突点、壕の中、また地中深く掘り進む暗闇のジャックたち。彼にも家族がある。死と数ミリしか隔てのない中で考えること。音、臭い、振え、グロ過ぎないが描写は一級。終盤の突撃戦、850人中、生き残り115名(数字は曖昧)、死傷率だけでは言い表せない筆致力。いい。

下巻：1917～1918年のスティーヴンを中心とする第一次世界大戦時代は爆風的勢いで緊迫感がある。特に地下トンネルに生き埋めからの脱出劇はリアリティがある。参戦国の兵士は誰のためでもなく無意味に戦った。時代は転じて、ルーツを探るべく孫娘のエリザベスの記述は冗長しすぎるように感じる。世界大戦で多くの命が無駄に失われ、戦後は戦地に赴いた兵士の誰もが貝となって口を閉ざした。語れないのだろう。エリザベスの出産が多くを失った戦時の魂が時代・世代を繰り越しながら生き長らえる生命の尊さ、尊厳をいいたかったのじゃなかろうか。僕は○です。

英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1,000冊 　　戦争旅行記：122/1,000作品中

	登録情報 文庫: 396ページ 出版社: 扶桑社 (2002/6/1) 言語: 日本語 ISBN-10: 4594036163 ISBN-13: 978-4594036164 発売日： 2002/6/1
	登録情報 文庫: 439ページ 出版社: 扶桑社 (2002/6/1) 言語: 日本語 ISBN-10: 4594036171 ISBN-13: 978-4594036171 発売日： 2002/6/1
内容紹介 「この40年間で最高の小説」と絶賛！ 新時代の巨匠が“愛と戦争”を描ききる 上巻：青年スティーヴンは、工場経営者の若き妻イザベルと出会った。恋情は、狂おしい愛となって爆発、彼とイザベルに新たな世界がひらけていく??だが6年後、スティーヴンは、第一次世界大戦の激戦地、フランス戦線の塹壕のなかにいた。泥と砲火と死に囲まれた兵士たちに、悲劇の日が近づいていた。 下巻：兵士を圧迫する土中の闇。泥と砲火と死にかこまれた日々。スティーヴンたちは、歴史に残るソンムの激戦で、多くの仲間を失なっていた。しかし、悪夢のような日々に、唯一のなぐさめの光が差してくる―時は流れ、1978年。ロンドンに住むエリザベスは、自分の人生に悩んでいた。そんな彼女が見つけた、亡き祖父の日記帳が、過去の扉をひらく…「この40年間で最高の小説」と激賞され、“20世紀を代表する50冊”に選ばれた名作、ついに登場!愛と戦争と人間を圧倒的な筆致で描ききった歴史大作。