原書は、Remembrance of Things Past, Marcel Proust
(1)本書を読んでみたいと思ったのは、デンゼル・ワシントン主演のイコライザー2で読まれていたから。ガーディアン1000必読でもある。しかし、超大、空前絶後の14巻(400字原稿用紙で一万枚近く)、難解、登場人物多、読み終えた人は読書人口全体の一握り、本書を読み解くための解説書まで出版されている有様。読み終えた人は武勇伝として語ることが許されるともいう。原書では第一篇から第七篇とあり、訳本は14巻に分割されている。さて、ここに最終巻(第十四巻)まで読み遂げることを宣誓したい。味覚や嗅覚、五感に誘発され「無意識的記憶現象」の世界に誘って貰い、ズブズブと心身を浸しきることができるか、または飽き飽きしてさっさと脱落するか、だ。
プルーストにかかると、アスパラガスの表現もこのようになる。(p269参照) 下敷きとなった書籍があるようだが、ここは絶品でしょう。
(2)まだまだ長丁場。芸術・美術・演劇の登場も多く、プルーストの博学さが解る。しかし、僕はスワン、オデットもキャラクター的には波長が合いません。時代も時代だけれども、プルーストは、出来事や心情の表現をひっぱるひっぱるから、さすがなのか、クドイのか、どうしたものか?
(3)三巻にきてはや難所、大きな壁が僕の前に立ちはだかってきた。真率申し上げるとおもしろくないのである。パンシロンGをご飯にふりかけて食べているようなものである。それもお茶なしで。プルースト研究家で訳者、吉川和義氏が文末で述べているが『プルーストの小説において枢要となるのが「筋立て」ではなく、「精神」のドラマであることを雄弁に示している』氏の訳には注釈文や図が豊富に挿入されており、読者へ更なる興味の誘導と理解を深めるための役割を果たしてはいる。本巻は文化(服装、美術、建築、ブルジョア階級の風習)を学ぶ観点で読み終えた。主な話のひとつとして、私(主人公)のジルベルトへの想いは女々しく自身の自尊心に呪縛され、ほんとうの恋でも愛でもない。仕事のないブルジョア青年の暇つぶしでしかないじゃないか。いい加減にしなさい。
(4)本巻は「失われた時を求めて」の中では読みやすく人気の高い巻と訳者は述べている。主人公(私)の恋を、実際に出会いと出来事はあるのだが、(私)の微に入り細を穿った分析や評論ばかりでは純粋な盛り上がり、ハートに火が点くにはほど遠い。ブルジョアの青年(私)は、自分では髭を当たることさえ自分ではしない、できないといった有様。7巻まで購入しているので根気・根気か。
(5)「精神のドラマ」であることを自己に強く暗示する。物事や感情に一喜一憂しながら共感や反撥をすることを止め、自然体で心の赴くまま脳に流し込めばいい。余裕で当時にワープした気になればいい。なるほどなるほどでいい。プルーストは尋常でないところもあるが、思考を突き詰め、煮詰め、妥協しない卓越した洞察力も認めてみよう。するとどうでしょう。肩の力がすっと退く。何となく自分側に手綱を締めてきたように錯覚している。
(6)静寂に粛々と読み進めている。本巻は前半2/3がサロンでの模様、後半1/3は祖母の病気と死が語られる。サロンの女性貴婦人の縄張り争い、力関係を誇示する支離滅裂な有様や、それに取り入ろうとする人達の孤軍奮闘の哀れさが痛々しい。後半の祖母の衰弱に伴う各種治療が興味深い。牛乳療法とかね。プルーストも医学の最新の話題について触れることがあるが、19世紀後半、レントゲンの発見、僅か100年前であるが、されど一世紀の医学の進歩はめざましいものだ。たとえば当時の瀉血治療はヒルを頭や体に這わせて血を吸い出していた。このヒルは鮮魚店で売っていたのか、自分で捕獲しにいくのか、医者が持っているのか、どうなんだろう。次巻に続け。
(7)14巻中7巻読了。丁度半分か。只今、泥酔中。感想といわれてもゲルマント公爵夫人のキレのいい晩餐会での発言、これは僕としては賞賛に近しい。しかし、主人公の私は後から振り返りネチネチと粗探しをする。それが社交場の流儀かも知れないが、潔くない。どうにかしてないか、その私。プルーストはどのような命を主人公に吹きこもうとしているのか、何を代弁させたいのか、中盤に差し掛かり、はてなはてなになっている。
(8)主人公の語り手である「私」は、気むずかしく、疑り深く、従僕、小間使いを人間として見なすことはなく、正直、褒めてあげるところが限りなく少ない。これらは作家プルーストの人格が少なからず伝搬しているのであろう。彼はホモだったらしく、女性に対する扱い、思考が幼稚だが、ホモ(ソドム)についての描写は核心をついているのではないが、自分はホモだと疑われないよう倒錯者(本文での表現)には批判的な考察をしている。うーむ!
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