『失われた時を求めて(6)ゲルマントのほうII』プルースト(著) 2019
8/24
土曜日

原書は、Remembrance of Things Past, Marcel Proust


(1)本書を読んでみたいと思ったのは、デンゼル・ワシントン主演のイコライザー2で読まれていたから。ガーディアン1000必読でもある。しかし、超大、空前絶後の14巻(400字原稿用紙で一万枚近く)、難解、登場人物多、読み終えた人は読書人口全体の一握り、本書を読み解くための解説書まで出版されている有様。読み終えた人は武勇伝として語ることが許されるともいう。原書では第一篇から第七篇とあり、訳本は14巻に分割されている。さて、ここに最終巻(第十四巻)まで読み遂げることを宣誓したい。味覚や嗅覚、五感に誘発され「無意識的記憶現象」の世界に誘って貰い、ズブズブと心身を浸しきることができるか、または飽き飽きしてさっさと脱落するか、だ。
プルーストにかかると、アスパラガスの表現もこのようになる。(p269参照) 下敷きとなった書籍があるようだが、ここは絶品でしょう。


(2)まだまだ長丁場。芸術・美術・演劇の登場も多く、プルーストの博学さが解る。しかし、僕はスワン、オデットもキャラクター的には波長が合いません。時代も時代だけれども、プルーストは、出来事や心情の表現をひっぱるひっぱるから、さすがなのか、クドイのか、どうしたものか?


(3)三巻にきてはや難所、大きな壁が僕の前に立ちはだかってきた。真率申し上げるとおもしろくないのである。パンシロンGをご飯にふりかけて食べているようなものである。それもお茶なしで。プルースト研究家で訳者、吉川和義氏が文末で述べているが『プルーストの小説において枢要となるのが「筋立て」ではなく、「精神」のドラマであることを雄弁に示している』氏の訳には注釈文や図が豊富に挿入されており、読者へ更なる興味の誘導と理解を深めるための役割を果たしてはいる。本巻は文化(服装、美術、建築、ブルジョア階級の風習)を学ぶ観点で読み終えた。主な話のひとつとして、私(主人公)のジルベルトへの想いは女々しく自身の自尊心に呪縛され、ほんとうの恋でも愛でもない。仕事のないブルジョア青年の暇つぶしでしかないじゃないか。いい加減にしなさい。
(4)本巻は「失われた時を求めて」の中では読みやすく人気の高い巻と訳者は述べている。主人公(私)の恋を、実際に出会いと出来事はあるのだが、(私)の微に入り細を穿った分析や評論ばかりでは純粋な盛り上がり、ハートに火が点くにはほど遠い。ブルジョアの青年(私)は、自分では髭を当たることさえ自分ではしない、できないといった有様。7巻まで購入しているので根気・根気か。
(5)「精神のドラマ」であることを自己に強く暗示する。物事や感情に一喜一憂しながら共感や反撥をすることを止め、自然体で心の赴くまま脳に流し込めばいい。余裕で当時にワープした気になればいい。なるほどなるほどでいい。プルーストは尋常でないところもあるが、思考を突き詰め、煮詰め、妥協しない卓越した洞察力も認めてみよう。するとどうでしょう。肩の力がすっと退く。何となく自分側に手綱を締めてきたように錯覚している。
(6)静寂に粛々と読み進めている。本巻は前半2/3がサロンでの模様、後半1/3は祖母の病気と死が語られる。サロンの女性貴婦人の縄張り争い、力関係を誇示する支離滅裂な有様や、それに取り入ろうとする人達の孤軍奮闘の哀れさが痛々しい。後半の祖母の衰弱に伴う各種治療が興味深い。牛乳療法とかね。プルーストも医学の最新の話題について触れることがあるが、19世紀後半、レントゲンの発見、僅か100年前であるが、されど一世紀の医学の進歩はめざましいものだ。たとえば当時の瀉血治療はヒルを頭や体に這わせて血を吸い出していた。このヒルは鮮魚店で売っていたのか、自分で捕獲しにいくのか、医者が持っているのか、どうなんだろう。次巻に続け。

英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1,000冊   家族・私小説:119/1,000作品中

失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫) 登録情報
文庫: 528ページ
出版社: 岩波書店 (2010/11/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003751094
ISBN-13: 978-4003751091
発売日: 2010/11/17
失われた時を求めて(2)――スワン家のほうへII (岩波文庫) 登録情報
文庫: 555ページ
出版社: 岩波書店 (2011/5/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003751116
ISBN-13: 978-4003751114
発売日: 2011/5/18
失われた時を求めて(3)――花咲く乙女たちのかげにI (岩波文庫) 登録情報
文庫: 498ページ
出版社: 岩波書店 (2011/11/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003751124
ISBN-13: 978-4003751121
発売日: 2011/11/17
失われた時を求めて(4)――花咲く乙女たちのかげにII (岩波文庫) 登録情報
文庫: 704ページ
出版社: 岩波書店 (2012/6/16)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003751132
ISBN-13: 978-4003751138
発売日: 2012/6/16
失われた時を求めて(5)――ゲルマントのほうI (岩波文庫) 登録情報
文庫: 448ページ
出版社: 岩波書店 (2013/5/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003751140
ISBN-13: 978-4003751145
発売日: 2013/5/17
失われた時を求めて(6)――ゲルマントのほうII (岩波文庫) 登録情報
文庫: 448ページ
出版社: 岩波書店 (2013/11/16)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003751159
ISBN-13: 978-4003751152
発売日: 2013/11/16

内容紹介
(1)ひとかけらのマドレーヌを口にしたとたん襲われる戦慄。「この歓びは、どこからやって来たのだろう?」 日本の水中花のように芯ひらく想い出――サンザシの香り、鐘の音、コンブレーでの幼い日々。プルースト研究で仏アカデミー学術大賞受賞の第一人者が精確清新な訳文でいざなう、重層する世界の深み。当時の図版を多数収録。

(2)株式仲買人の出身ながら社交界の寵児スワンは、ある日友人に最下層の粋筋(ココット)オデット・ド・クレシーを紹介される。追う女、追われる男の立場はいつしか逆転し、初老の男は年下の恋人への猜疑と嫌悪に悶える(スワンの恋)。二人の結婚からジルベルトが誕生し、幼い「私」はシャンゼリゼで出会ったこの美少女に夢中になる(土地の名―名)。好評の吉川プルースト第2巻。(全14冊)

(3)少年の目に映るパリの社交風俗を描く、第二編第一部「スワン夫人をめぐって」。オデットとの結婚によって上流階級との交際を断ったスワン。夫妻の娘ジルベルトへの想いを募らせ、スワン家のサロンの信奉者となる私。ある日、夫人のお供をした昼食会で憧れの作家ベルゴットと同席する栄に浴するも、初恋は翳りを帯び……。

(4)それから二年後、私はノルマンディーの保養地バルベックに滞在した。上流社交界のゲルマント一族との交際、「花咲く乙女たち」の一人アルベルチーヌの抗いがたい魅惑、ユダヤ人家庭での夕食、画家エルスチールのアトリエで触れる芸術創造の営み。海辺のリゾート地、ひと夏の燦めきを描く、第二部第二篇「土地の名―土地」。

(5)パリのゲルマント館の一翼に引っ越した一家。家主の公爵夫人は神秘に包まれた貴婦人。その威光にオペラ座で触れた「私」は、コンブレー以来の夢想をふくらませ、夫人の甥のサン=ルーを兵営に訪ねて軍人の世界を垣間見たり、友人と愛人の諍いに巻き込まれながら、しだいに「ゲルマントのほう」へ引き寄せられる。

(6)祖母の旧友ヴィルパルジ夫人のサロンで、「私」は憧れのゲルマント公爵夫人とついに同席。芸術、ゴシップ、ドレフュス事件など、社交界の会話の優雅な空疎さを知る。家では祖母の体調が悪化。哀しみを押し隠す母、有能で非人間的な医師、献身的で残酷な女中の狭間で、死が祖母を「うら若い乙女のすがたで」横たえるまでを「私」はつぶさに目撃する。







Copyright (C) 2019 Shougo Iwasa. All Rights Reserved.