『夜愁(上下巻)』サラ・ウォーターズ(著) 2019
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日曜日

原書は、The Night Watch, Sarah Watersl(2006)。

上巻:彼女の四作品目、既読本とはトーンは転換していて日常の生活を、狭い範囲の市民を綴っていく。サラは更なる評価を渇望し、強かな勝負魂を密やかに隠しているというのか。時代は戦後から刺激的な戦中へと遡っていく。泰平ではないところに物語は拡大・発散するものですから時代設定はよし。戦中の日常描写がリアルで瞠目に値する。下巻でのストーリーは如何に。派手さはないが、ジンワリ読み手に染み込んでくる感覚といえばよろしいか。悪く言えば単調。

下巻:エンターテイメント性はなく、写実現実な描写である。今でこそ認識は変化してきたであろうが、1940年代の同性愛は罪であって、公にはできない秘め事だった。その中でレズビアンを貫く女性の強さや、嫉妬からくる愛情の崩壊もあったりで。空爆による生存が脅かされる中で、その愛がプラスにもマイナスにも蜘蛛の糸の如く強靱さと脆弱さで繋がっている。そこいらの人間模様を描きたかったのだろうか。サラは。現代世代に対して反戦意識も遡及したかったのではないだろうか。戦争がなければ登場人物たちはどうなっていただろうか、想像してみよう。

英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1,000冊   ロマンス:108/1,000作品中

登録情報
文庫: 348ページ
出版社: 東京創元社 (2007/05)
言語: 日本語
ISBN-10: 4488254055
ISBN-13: 978-4488254056
発売日: 2007/05
登録情報
文庫: 332ページ
出版社: 東京創元社 (2007/05)
言語: 日本語
ISBN-10: 4488254063
ISBN-13: 978-4488254063
発売日: 2007/05

内容(「BOOK」データベースより)
■上巻
1947年、ロンドン。第二次世界大戦の爪痕が残る街で生きるケイ、ジュリアとその同居人のヘレン、ヴィヴとダンカンの姉弟たち。戦争を通じて巡り合った人々は、毎日をしぶとく生きていた。そんな彼女たちが積み重ねてきた歳月を、夜は容赦なく引きはがす。想いは過去へとさかのぼり、隠された真実や心の傷をさらけ出す。ウォーターズが贈るめくるめく物語。ブッカー賞最終候補作。
■下巻
1944年、ロンドン。夜ごと空襲の恐怖にさらされながら、日々の暮らしに必死でしがみつく女たちと男たち。都会の廃墟で、深夜の路上で、そして刑務所の中で、彼らの運命はすれ違い、交錯する。第二次世界大戦を背景に、赤裸々に活写されるのは人間の生と業、そして時間の流れと過ぎゆく夜。大胆な手法を駆使して、人間という存在の謎に迫る、ウォーターズ渾身の傑作。







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