『アイスクリーム戦争』ウィリアム・ボイド(著) 2019
1/5
土曜日

原書は、An Ice-Cream War, William Boyd(1982)。いい小説だった。やんわり心に沁み混む人間模様、思うようにはいかないもどかしさ。第一大戦を扱っているが西部戦線ではなく、東アフリカのドイツ領とイギリス領が舞台の中心で、大義名分はどこにやら、ヨーロッパに負けじとやってしまった感じがしてしまう。それに巻き込まれる移住民、学生、現地人等々。当初は第一次世界大戦は数ヶ月で終わるだろうというのが大方の見方であったが、豈図らんや、数年に及んだ泥沼合戦となった。ヨーロッパでの塹壕戦争は事に映画・本で採り上げられるが、遠くアフリカの地でもあったのだ。良い小説といえる僕の基準は、風景や登場人物の表情・動作が、爆風の音、死臭や糞の臭いまでが、まるで自分が「そこ」に佇んで傍観しているようにリアリティをもって迫ってくることが挙げられる。本書がそうだ。戦争は非日常であり、それがなければそれぞれに生活が、仕事が、家庭が粛々と演じられていたものが急転直下、崩れ去る。兵士も銃後の人々も苦しみ藻掻く。一言では言い表せないが。本小説は、戦争の緊張感・倦怠感もさることながら、人物の心情の現せかたが実に上手である。読了後も体はジーンと爆風を受けた後のように痺れの残る小説だった。


英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1000冊>戦争旅行記:96/1,000

登録情報
単行本: 505ページ
出版社: 早稲田出版 (1993/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4898271480
ISBN-13: 978-4898271483
発売日: 1993/10

内容(「BOOK」データベースより)
第一次大戦下、英国で、アフリカで、苛酷な運命を生きぬいた男と女たち―。そこには、喜びと哀しみに満ちた愛があった。夢をつむいでゆくはずだった者たちの人生は戦いの無意味さに翻弄され、やがて真夏のアイスクリームのように溶け去っていく…。人生のはかなさを、詩情とユーモアで謳いあげる、ジョン・ルウェリン・リース記念賞の話題作。






Copyright (C) 2019 Shougo Iwasa. All Rights Reserved.