『虚栄の市<一・二・三・四巻>』サッカリー(著) 2018
12/19
水曜日

原書は、Vanity Fair, William Makepeace Thackeray(1847-48)、170年前の出版でヴィクトリア調時代を代表する作家のひとり、サッカリー最高傑作と誉れ高い。
【第一巻】
まだ序盤でしょうが。英国の貴族社会、持たざる者との身分格差が如実で、格式のある准男爵や高貴とされる家柄はずっと保証されたようなもの。苦労し成功した成り上がりの金持ちもどこかで自分たちを卑しい階級だと虐げる自虐的気分だったり。出生に拘りますね。そんなことに意味があった時代、代々身分や職業が伝達されていくというか、墓堀の子は墓堀でね。貴族が生き長らえ安楽な生活をすることが不可能な要因は19世紀初頭にも歪みはあからさまですよね。

【第二巻】
当時の小説の登場人物は、男も女も感情表現が大袈裟で、スタンスが朝令暮改で、まぁ、なんといいましょうか、ころんころん二転三転と考えが変わるわけでして、懺悔・改心したと思えば寝ては忘れ、君のプリンシプルはどこにあるのだ、と登場人物それぞれにもの申したくなるのですね。そういったことを念頭に物語を楽しみましょう。

【第三巻】
上流社会にも成り上がりで上流生活に加わろうとする人たちもいて、それを貴族たちはあまり喜ばしく思わない。いずれにせよ、親の遺産をあてにしたり、働かずして、借金を踏み倒すのもあったり、僕はこの時代には生活をしたくないですね

【第四巻】
脱線路線もありながら、歴史的背景、文化(オペラ、演劇)、食事、衣装、乗り物、風景などがロンドン、ハンプシャー、旅先のフランス、ドイツ等々、当時のリアルさが表現されていて興味深い。主人公はいないといいながら女性はアミーリアとレベッカが中心人物となるが、どちらも芯があるようで抜作で、転々と気分も行動も変動する七変化心情には呆れかえってしまう。紳士淑女の伝統と格式を重んじる英国も生まれながらの紳士もいようが、一皮剥けば、本音が出れば上流も下流も差がない。逆にお金がないほうが心の充足感を満たせるのではないか。

 (ガーディアン必読1000冊 社会派:92作品読了/1,000冊)

登録情報
文庫: 434ページ
出版社: 岩波書店 (2003/9/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003222717
ISBN-13: 978-4003222713
発売日: 2003/9/18
登録情報
単行本: 447ページ
出版社: 岩波書店 (2003/11/15)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003222725
ISBN-13: 978-4003222720
発売日: 2003/11/15
登録情報
文庫: 446ページ
出版社: 岩波書店 (2004/1/16)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003222733
ISBN-13: 978-4003222737
発売日: 2004/1/16
登録情報
文庫: 411ページ
出版社: 岩波書店 (2004/3/16)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003222741
ISBN-13: 978-4003222744
発売日: 2004/3/16
内容紹介
19世紀初頭,ロンドン.上昇志向のベッキーと淑やかなアミーリアが女学校を終え世間へ踏み出す.大英帝国の上層社会,そこは物欲・肉欲・俗物根性うずまく〈虚栄の市〉.植民地経営とナポレオン戦争を背景に浮沈する,貴族,有産階級の人生模様.作者自身の挿絵でいろどるサッカリーの最高傑作.まっさらの新訳でお目見え!

【一巻】
一九世紀初頭ロンドン。烈女ベッキーと淑女アミーリアが女学校を去る。渡る世間は物欲肉欲・俗物根性犇く「虚栄の市」。貴族や有産階級の姿を鏡にさらす英国版『戦争と平和』。作者の挿絵、筋運び、語り口―心憎いまで第一級のクラシック・エンタテインメント。

【二巻】
ベッキーは首尾よく名家の次男坊と結婚,野心も新たに社交界の頂点スタイン侯爵に近づく.一方アミーリアには悲運が続く.ナポレオン進軍で全欧が震撼し株価暴落で実家は破産,やがてワーテルローから夫の戦死の報が…ロンドン,ブライトン,欧州を舞台に展開するイギリス版「戦争と平和」,前半の山

【三巻】
戦争未亡人となったアミーリアは一人息子が生き甲斐の毎日。孫を取り戻そうとする婚家の一方で、母子を見守る亡夫の親友ドビン。対照的にベッキーは社交界を泳ぎ、夫も子供も顧みず、大富豪スタイン侯爵に近づくが…悪事露見の有名な章まで。

【四巻】
賭博場をさすらうベッキーとの予期せぬ再会。亡夫を追慕するアミーリアに旧友は15年前の手紙を突きつけ迷妄を醒ましてやる。しかし、ああ、空の空―虚栄の社会はなおも続き…人間絵巻ついに完結。“悪女”最後の疑惑を読者にのこして



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