『シンパサイザー』ヴィエト・タン・ウェン(著) 2018
11/3
土曜日

二冠(ピュリッツァー賞、エドガー賞最優秀新人賞)以上受賞作だが、ヴェトナムを扱った小説では、バオニン「戦争の悲しみ」、開高剛の作品や、サイゴンからの脱出を扱った小説も読んだ。本書は銃撃戦の最前線というよりバックヤードでスパイとして(映画的なハラハラ的スパイの活躍シーンではないし、スパイとして機能したのか僕は疑問)というより、心の内面・葛藤・友情・駆け引き、男の悶々が語り手により淡々と伝わる。丁寧にゆっくりと読んだ。夜の皇軍の銃撃戦や肉片炸裂、脳味噌炸裂シーンも楽しめるし、肉体的ではなくメンタリティに効能を発揮する拷問シーンもある。全般に文章の練り方と、シーンからふっと話題を変え、また戻ってくる着地ポイントが上手である。複数に捻りを効かせている。南ヴェトナムもアメリカの民主的色合いを塗され西洋化した時もあるが、サイゴン陥没後、共産主義奥義としてグレー化、自由鎮圧・抑圧される気配になっていくのだがヴェトナムの貧しかった時代の庶民生活の描写も偏見ではなく捨てがたい。「革命が勝利に終わったら革命家たちは何をするのか? なぜ独立と自由を求めてきた者たちは他の者たちの独立と自由を奪うのか?・・・」答えられる人、いますか?
登録情報
単行本: 494ページ
出版社: 早川書房 (2017/8/24)
言語: 日本語
ISBN-10: 4152097027
ISBN-13: 978-4152097026
発売日: 2017/8/24

内容紹介
「私はスパイです。冬眠中の諜報員であり、秘密工作員。二つの顔を持つ男――」捕らえられた北ベトナムのスパイは、独房で告白をつづる。息もつかせぬスパイ小説にして皮肉に満ちた文芸長篇。ピュリッツァー賞、エドガー賞最優秀新人賞など六冠に輝いた傑作!







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