『絶対音感』最相 葉月(著) 2018
8/7
火曜日

「絶対音感」とは何気には知っていたものの、実際のところどうなのだ。この歳でも身に付けられるものだろうか、と興味本位で手に取った本書。英語ではAbsolute Pitch、またはPerfect Pichともいう。絶対音感は先天的なものか、後天的なものか、あるとないとではどちらがいいのか、弊害もあるのか。ないものねだりだった僕の気持ちも一気に一掃・粉砕され、「そのようなものなくても十分幸せに生きていける」と平静さに包まれた。固定ド唱法だけでなく、変動ド唱法があること、音名、音階、音律の違いなど、音楽の基礎も分かったし、バイオリニスト五嶋みどりの家族の話も興味深く読めたのだった。

絶対音感
最相葉月
B00CL6N0BM
登録情報
単行本: 337ページ
出版社: 小学館 (1998/02)
言語: 日本語
ISBN-10: 4093792178
ISBN-13: 978-4093792172
発売日: 1998/02
受賞歴
第4回(1997年) 小学館ノンフィクション大賞受賞

商品説明
「絶対音感」とは、ある音を聞いたときに、ほかの音と比べなくてもラやドといった音名が瞬時にわかる能力である。これがあると、一度曲を聴いただけで楽器を弾いたり楽譜に書いたりでき、小鳥のさえずりや救急車のサイレンの音程がわかったりもする。過去の偉大な音楽家のベートーベンやモーツァルトにはあったとされ、一般人に計り知れない能力として、天才音楽家の条件のように言われることが多い。

しかし、「そもそも曖昧であるはずの人間の感覚が“絶対”とは何なのか。そんな疑問と語感の強さに引かれ、翌日辞典を開いたその瞬間にはもう、その言葉のとらわれの身」となり、著者は絶対音感という神話を解き明かそうと試みる。五嶋みどり、千住真理子、矢野顕子、大西順子、笈田敏夫ら絶対音感をもつ音楽家を取材し、その特異な世界を紹介しつつ、脳科学や神経科学の専門家たちにあたって分析を試みる。音楽と科学の間を行き交いながら、絶対音感にも仮性と真性があるなど、「絶対音感=万能」という安易な幻想と誤解を一枚一枚引きはがしてゆく。

過剰な表現や構成力の不足はあるものの、本書は第4回「週刊ポスト」「SAPIO」21世紀国際ノンフィクション大賞を受賞し、著者の出世作となった。裏を返せば、それだけこのテーマがおもしろい証拠だろう。一般人とは無縁の音楽家たちの深遠な世界が興味深い。また、五線譜のエンボスを施したオフホワイトの装丁が上品で好ましい。(齋藤聡海)




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