『菜の花の沖<五>』司馬 遼太郎(著) 2018
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木曜日

司馬遼太郎氏の全六巻の第五巻。漂流記、開拓記類は未知の領域、何が起こるのか数奇な運命に翻弄されるわけで吸い込まれるジャンルである。第五巻、嘉兵衛の出来事が出てくるのは文末だけで、時代を遡り、特定の人物に脚光を浴びせている。支離滅裂しているようでノンフィクションでは語っておかなくてはならない定石でもある。司馬氏は史実に適切な考察と推量も加え、絶妙な判りやすさで執筆している。歴史・人物の前後左右を調べ尽くしているからこそ、シンプルな表現の中にも的中的確信を見いだすことができるのだろう。歴史小説は自分が読んだ書籍とリンクして密結合していくときの心地良さは捨てがたい。私の拙い読書歴でもリンクするのは、
『新装版 間宮林蔵』吉村 昭
『新装版 おろしや国酔夢譚 (文春文庫)』井上 靖
また、これを機に「読まなければ」本もあり、読書中毒に拍車がかかる。
・『日本俘虜実記 (上下巻) (講談社学術文庫)』ゴロウニン

江戸期における蝦夷のロシアの脅威、ロシア国自体も国土拡張と不安定な文化・外交施策でしかなく、欧州の列強国、時代としてフランス革命に煽られる。地理的に遙か遠くのオホーツク、樺太や千島列島の豊富な海洋資源の魅力、歴史にみるピョートル一世、エカテリーナ二世(女帝)の歩み、交易・開国を望むロシアを鎖国を理由に足蹴にし、その腹いせに1806年(文化2年)に蝦夷各地の焼き討ちしたフヴォストフ事件と、200年近く続いていた平穏時代に戦うことの作法も技量も忘れ去った武士、国防に迫られる江戸幕府はゴロウニンをお縄にしてしまう。などなど、語り尽くせない。

菜の花の沖〈5〉 (1982年)
司馬 遼太郎
B000J7KE4G
登録情報
単行本: 354ページ
出版社: 文藝春秋 (1982/10)
ASIN: B000J7KE4G
発売日: 1982/10
菜の花の沖 (4) (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105551
登録情報
単行本: 341ページ
出版社: 文藝春秋 (1982/09)
ASIN: B000J7LG02
発売日: 1982/09
菜の花の沖〈3〉 (1982年)
司馬 遼太郎
B000J7M5Q6
登録情報
単行本: 362ページ
出版社: 文藝春秋 (1982/08)
ASIN: B000J7M5Q6
発売日: 1982/08
菜の花の沖〈2〉 (1982年)
司馬 遼太郎
B000J7MPHU
登録情報
単行本: 366ページ
出版社: 文藝春秋 (1982/07)
ASIN: B000J7MPHU
発売日: 1982/07
菜の花の沖〈1〉 (1982年)
司馬 遼太郎
B000J7I2JU
登録情報
単行本: 342ページ
出版社: 文藝春秋 (1982/06)
ASIN: B000J7I2JU
発売日: 1982/0

内容(「BOOK」データベースより)
江戸後期、淡路島の貧家に生れた高田屋嘉兵衛は、悲惨な境遇から海の男として身を起し、ついには北辺の蝦夷・千島の海で活躍する偉大な商人に成長してゆく…。沸騰する商品経済を内包しつつも頑なに国をとざし続ける日本と、南下する大国ロシアとのはざまで数奇な運命を生き抜いた快男児の生涯を雄大な構想で描く。

【第二巻】海産物の宝庫である蝦夷地からの商品の需要はかぎりなくあった。そこへは千石積の巨船が日本海の荒波を蹴立てて往き来している。海運の花形であるこの北前船には莫大な金がかかり、船頭にすぎぬ嘉兵衛の手の届くものではない。が、彼はようやく一艘の船を得た。永年の夢をとげるには、あまりに小さく、古船でありすぎたが……。

【第三巻】蝦夷地の主・松前藩は、アイヌの人びとを酷使して豊富な海産物を独占していたが、この内実をほかに知られるのを恐れ、北辺にせまる大国ロシアの足音を聞きながら、それを隠し続けた。ようやく嘉兵衛が巨船を作り上げ、憧れのかの地を踏んだ頃から、情勢は意外な展開を見せ始めた。幕府が東蝦夷地の経営に乗り出したのだ。

【第四巻】エトロフ島は好漁場であったが、すさまじい潮流が行く手を妨げ、未開のままだった。しかし幕府は北辺の防備を固めるため、ここに航路を確立する必要を痛感して、この重要で困難な仕事を嘉兵衛にゆだねた。彼の成功は蝦夷人にも幕府にも大きな利益をもたらすだろう。しかしすでに、ロシアがすぐ隣のウルップ島まで来ていた。

【第五巻】ロシアは、その東部の寒冷地帯の運営を円滑にするために、日本に食料の供給を求めた。が、幕府が交易を拒絶したことから、報復の連鎖反応が始まった。ロシア船が北方の日本の漁場を襲撃すれば、幕府も千島で測量中のロシア海軍少佐を捕縛する。商人にすぎない嘉兵衛の未来にも、領国の軋轢がしだいに重くのしかかってくる。




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