原書は、A TASTE FOR DEATH(1996)。蜜の味じゃなくて死の味。どんな味だろう?
【上巻】ミステリーは出だしは緩やかにならざるを得ない。殺人によりスタート位置に立つが、まだ加速はしない。状況証拠、アリバイ、主な登場人物が出揃うのが前半戦。誰が胡散臭いか読者は憂悶と悶えるのがお作法、作家への礼儀とわきまえている。著者は女性であるが、ありがちな後付の行動説明、「私はこうだったからこうしたんだ、それでいい」的釈明風味が皆無で好印象をもつ。作者の特徴は「言おうとしたが言わずにおいた言葉」(カギ括弧が点線のイメージ)が多く、飲み込む言葉で心情を代弁している。下巻、アクセル捻って加速していただきましょう。
【下巻】いよいよ後半戦、ミステリーは早々、犯人が見つかってはならない。複数人に某かの殺人に対する動機があり、アリバイも曖昧なまま、捜査が続くのがよろしい。そして際際まで判らず、読者もまさかのどんでん返しというのが作者からすれば醍醐味かもしれない。本書はそこまで悩ますこともなく、最期は落ち着くところに落ち着くわけで、そうなると雪崩現象で全てがクリアーになってしまう。まあ、そういったものだろう。
(ガーディアン必読1000冊:犯罪系 61作品読了/1,000)
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