『恥辱』J.M.クッツェー(著) 2018
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水曜日

原書は、DISGRACE(1999)。主人公との共通点、年齢、離婚歴、娘の存在、性欲夥多、美人嗜好。後ろの二単語は実践するかは別問題としてささっと片付ける。父が娘を思い遣る気持ち、娘から見る父親像。これは娘が子供から大人へ、更に経験を積むに従ってベクトルはすれ違い交差するポイントは減少してくるのだろう。物語上、父親の気持ちで主人公に感情移入をしてしまうことは避けられなかった。しかし、南アフリカの治安上、凶悪卑劣な部分は野蛮であって、あのような出来事があっても娘は田舎に、自分の農場に根を生やそうと懸命だが、インテリ派の父には柔順に胸には納まらない。この葛藤には目を瞠る。

 (ガーディアン必読1000冊:社会派 54作品読了/1,000)

恥辱
J.M. クッツェー J.M. Coetzee

4152083158

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登録情報
単行本: 290ページ
出版社: 早川書房 (2000/12)
言語: 日本語
ISBN-10: 4152083158
ISBN-13: 978-4152083159
発売日: 2000/12
商品説明
舞台はアパルトヘイト撤廃後の南アフリカ。離婚を2度経験している大学教授のデヴィッドは、若いころから奔放な性を楽しんできたが、52歳になった今でもその欲望は衰えを知らない。そんなある日、彼は20歳の女子学生に強烈に引かれ、歳の差も社会的な立場も考えずに彼女を追いまわすようになる。半ば強引に彼女と関係を持ったデヴィッドはセクハラで告発され、軽蔑されて憎まれて、追われるように大学を去る。娘が経営する自作農園に身を寄せて再生の道を模索するが、そこにはさらなる恥辱が待ち受けていた。

本書でブッカー賞史上初となる2度目の受賞を果たしたJ・M・クッツェー。2003年には、文学的功績を認められてノーベル文学賞受賞の名誉にも輝いている。簡潔で鋭い文章を武器にするクッツェーが描くのは、新旧の思想や力が混在する社会に暮らす人々の心だ。カフカ的な不条理な展開を軸に、若さと老い、欲望と道徳のはざまで揺れる人間を冷徹なまでにまっすぐ見すえながら、読後感は決して冷たくはない。

本書でも、主人公は性欲という泥沼の中で哀しいくらいこっけいにもがいてみせる。職も名誉も失いながら、それでも性欲に振り回されてしまう情けなさ。新しい価値観と古い価値観がぶつかり合う混乱の中で暮らす不安と無力感。だが、あまりにみじめな主人公に怒りすら感じながらも、読み手は物語から目を離すことができない。なぜなら、彼の弱さは人間(特に男性)そのものの弱さであり、彼が恥辱にまみれるとき、読み手もまた堕ちていく感覚を味わうからである。

われわれはそうした情けなさから逃れることはできず、彼と同じくもがきながら生きていかねばならない。クッツェーの救いのない小説に不思議な温かみがあるとすれば、人生を不毛だとしながらも、苦闘する人間そのものは否定しない姿勢に共感を覚えるからであろう。(小尾慶一)

〈J・M・クッツェー〉
1940年、南アフリカのケープタウン生まれ。コンピュータ・プログラムや言語学を南アフリカとアメリカで学ぶ。1974年、『ダスクランド』で長篇デビュー。In the Heart of the Country(1977)とWaiting for the Barbarians(1980)で、南アフリカで最も権威あるCNA賞を受賞。1983年に発表した『マイケル・K』で、英国のブッカー賞、フランスのフェミナ賞を受賞するなど世界中で高く評価される。本書『恥辱』で、前人未踏の二度目のブッカー賞を受賞した。現在は、オーストラリア在住。

〈賞について〉
◆ノーベル賞
2003年、ノーベル文学賞受賞。スウェーデンの化学技術者アルフレッド・B・ノーベルの遺贈により毎年、優れた業績に対して与えられる賞。文学の他に、物理学、化学、生理医学、平和、経済学の部門がある。最初の授賞は、1901年。
◆ブッカー賞
その年に出版された最も優れた長篇小説に与えられる、イギリスで最高の権威ある文学賞。イギリスの多国籍企業ブッカー・マコンネル社が1969年に設立。

〈著作リスト〉
FICTION
・Duskland(1974)  『ダスクランド』(スリーエーネットワーク)
・In the Heart of the Country(1977)
・Waiting for the Barbarians(1980)
・Life & Times of Michael K.(1983)  『マイケル・K』(筑摩書房)
・Foe(1986)  『敵あるいはフォー』(白水社)
・Age of Iron(1990)  『石の女』(スリーエーネットワーク)
・The Master of St. Petersburg(1994)  『ペテルブルグの文豪』(平凡社)
・Disgrace(1999)  『恥辱』(早川書房)
・Elizabeth Costello(2003)



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