『軍隊と人間(コレクション 戦争×文学) 』
細田民樹、梅崎春生、渡辺清、村上兵衛、菊村到、結城昌治(著)、その他
2017
1/9
月曜日

(コレクション 戦争x文学)は数年前に2冊読んだことがある。全二十巻のシリーズ。ボリュームのある単行本だが、何冊か購入したので読んでいこうと思う。本書は「軍隊」のなかでも「逃亡」にフォーカスしたテーマを主に扱っている。軍隊とは、人間の誇りや尊厳をことごとく叩き壊し、獣に変貌させるための組織である。暴行などのリンチはそのための育成項目のひとつといっても過言ではないだろう。国元・家族の元に帰ることを夢に見、帰ることを生き甲斐にして軍隊生活を耐え抜いた。しかし耐えきれず逃亡すると、「死刑、もしくは無期懲」と陸軍刑法に定められていた。これがなければ全員、逃亡するに違いない。柴田錬三郎著による「仮病記」もリアリティがある。人間としての尊厳を、待ったなし、言い訳なしに踏みにじられる軍隊というのは、僕の中では現実味を帯びない。しかし、これは現実だったのである。

文末の浅田次郎氏の解説。「純文学」とは、「自然主義の伝統を継ぐ私小説」と定義していて、自然主義文学の本義は、思想的宗教的な理想化をせずに、醜悪なるものや瑣末な現実をありのまま表現することにある、と。文学観をもつ人が兵役についたときの体験が高純度の夥しい純文学に変化するのでしょう。非日常性が文学となる。頷けることだ。

細田民樹  『日露のおじさん』
梅崎春生  『崖』
渡辺 清  『海の城』
村上兵衛  『連隊旗手』
菊村 到  『しかばね衛兵』
古処誠二  『糊塗』
結城昌治  『従軍免脱』
野間 宏  『第三十六号』
吉田絃二郎 『清作の妻』
浜田矯太郎 『にせきちがい』
中村きい子 『間引子』
吉行淳之介 『藺草の匂い』
柴田錬三郎 『仮病記』
松本清張  『厭戦』
田村泰次郎 『地雷原』
洲之内 徹 『棗の木の下』

コレクション 戦争x文学   
現代編 テーマ編
1 朝鮮戦争 11 軍隊と人間
2 ベトナム戦争 12 戦争の深淵
3 冷戦の時代 13 使者達の語り
4 9.11変容する戦争 14 女性たちの戦争
5 イマジネーションの戦争 15 戦時下の青春
- 近代編 - 地域編
6 日清日露の戦争 16 満州の光と影
7 日中戦争 17 帝国日本と朝鮮・樺太
8 アジア太平洋戦争 18 帝国利本と台湾・南方
9 さまざまな8.15 19 ヒロシマ・ナガサキ
10 オキュパイドジャパン 20 オキナワ終わらぬ戦争


軍隊と人間 (コレクション 戦争×文学)
細田 民樹 梅崎 春生 渡辺 清 村上 兵衛 菊村 到 結城 昌治 野間 宏 吉田 絃二郎 浜田 矯太郎 中村 きい子 吉行 淳之介 柴田 錬三郎 松本 清張 田村 泰次郎 洲之内 徹
4081570116
登録情報
単行本: 680ページ
出版社: 集英社 (2012/11/5)
言語: 日本語
ISBN-10: 4081570116
ISBN-13: 978-4081570119
発売日: 2012/11/5

内容紹介
軍隊という組織の中で苦悶する若き兵士たち
徴兵を忌避する若者、兵営内で吹き荒れる私刑、軍隊への死を賭した反抗……。兵士たちの深い嘆きと隠された肉声に、野間宏、柴田錬三郎、結城昌治ら一流作家が迫った、感動を呼ぶ本格小説16篇。


著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
細田民樹
1892(明25)・1・27~1972(昭和47)・10・5、東京生。早大英文科卒。幼少時、父の郷里広島県山県郡に移住。大学在学中の1913年7月「泥焔」が「早稲田文学」に掲載される。15年12月、徴兵され広島騎兵第五連隊に入営、18年12月除隊。翌年4月、軍隊生活を題材とした「或兵卒の記録」を持参して上京、「中央公論」「改造」「雄弁」などに分載。24年に改造社より刊行されるが、初の反戦小説として陸軍当局から圧力を受ける

梅崎 春生
1915(大4)・2・15~65(昭40)・7・19、福岡生。東大国文科卒。陸軍軍人の家庭で厳しく躾けられる。学生時代より同人誌に参加。39年8月「風宴」が「早稲田文学」新人創作特集号に掲載される。40年、東京市教育局に勤務。44年6月、海軍に召集され、通信科二等兵曹として九州の各基地を転々とし、鹿児島で敗戦。この戦争体験をもとに書いた「桜島」を46年9月「素直」に発表。54年8月「ボロ家の春秋」(直木賞)を「新潮」に発表

渡辺 清
1925(大14)・2・17~81(昭56)・7・23、静岡生。上野尋常高等小卒。41年、一六歳で海軍志願兵となる。翌年、戦艦武蔵に乗り組み、マリアナ、レイテ沖海戦に参加。44年10月24日、フィリピン海戦で撃沈された際、九死に一生を得て生還。45年9月、郷里の富士宮に復員。この体験をもとに「戦艦武蔵の最期」などを書く。戦後は結核で闘病生活をおくる。59年、日本戦没学生記念会会員になる

村上 兵衛
1923(大12)・12・6~2003(平15)・1・6、島根生。東大独文科卒。1942年、陸軍士官学校入学、44年卒業後、近衛歩兵連隊旗手となる。45年7月、陸軍士官学校区隊長に転任、浅間山麓で演習中に敗戦。復員後に東大入学。第一五次「新思潮」同人となる。53年12月「医師と参謀」を「新潮」に、55年9月「葬送行」を「文藝」に発表。56年4月「中央公論」に「戦中派はこう考える」を発表、戦中派世代の代表として、社会評論家に転身する

菊村 到
1925(大14)・5・15~99(平11)・4・3、神奈川生。早大英文科卒。44年10月、陸軍予備士官学校入学、翌年6月卒業後、見習士官として秋田に赴き、敗戦。48年読売新聞入社、社会部、文化部記者として勤務。53年、モンテンルパの日本人戦犯釈放の取材で、フィリピンに特派員として派遣される。この時の体験をもとに、55年4月「小さな十字架」を「文学者」に発表。57年2月「不法所持」で文学界新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)



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