『背中の勲章』吉村昭(著) 2016
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日曜日

鰹船を監視艇として徴用し、信号長であった氏が捕虜として4年をアメリカで生きた様が描かれている。ご存じのように戦中、日本の行動規範は、「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受くることなかれ」であったわけで、米国のように捕虜は誇りとして扱われることとは真逆であった。捕虜として生きるのならば『死を選ぶ』が一般日本人の自然な考えであったのだ。終戦、一年以上経過の後、紆余曲折のうちに日本の土を踏んだ。しかし、後ろめたさと人目を避けるような生活を自ら科そうとしていた。敵国はアメリカばかりではなく、日本の中に、日本人の心の中に棲みついており、真水に浸けて塩分を抜くような簡単な酵素分解のような社会構造をしていないのだろう。周囲が許していても自分が捕虜という十字架の重りを外せないでいるのではないか。なんとも心苦しい。

背中の勲章 (新潮文庫)
吉村 昭
4101117128
登録情報
文庫: 205ページ
出版社: 新潮社; 21刷改版 (1982/5/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101117128
ISBN-13: 978-4101117126
発売日: 1982/5/27

内容紹介
昭和17年4月18日――太平洋上の哨戒線で敵機動艦隊を発見した特設監視艇・長渡丸の乗員は、玉砕を覚悟で配置につき、死の瞬間を待った。けれども中村一等水兵以下五名は、米軍の捕虜となり、背中にPWの文字のついた服を着せられて、アメリカ本土を転々としながら抑留生活をおくった――。運命のいたずらに哭く海の勇士の悲しい境涯を通して描く、小説太平洋戦争裏面史。






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