『落日の宴(上下巻)』吉村 昭(著) 2016
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金曜日

同じ作家を続けざまに読む嗜好がある。暫し持続する、かと思えば隣の芝は青いではないかと、ハタと気づいて浮気心か他作家に乗り換えてみたくなる。
本書、幕末の外交官的役割を果たしたた川路が主人公の史実である。鎖国を国策としていた日の本は、時代に取り残されるばかりとなっていた。川路はロシアやアメリカの大統領名代に臆することなく対等に交渉をしていくのである。国内では諸国、現在でも知名度の高い「お台場」含め大砲が設置された。しかしながら諸外国との技術格差は歴然としたものであった。さて、本書で時代の香り香しいのは、「移動」と「情報伝達」の描写である。勘定奉行に上り詰めていた川路は移動は身分柄、「籠」だが自らは徒歩好みであったこと。江戸から下田、または京都・大坂に赴くまでの模様が克明である。天城峠越えであるとか、高低差激しい難所もあるのだし、寒暑、吹雪、雪、日に40里(ざっと55km)歩く日もある。それが半月以上続く。また、すべて飛脚による情報伝達であるから、数日遅れは当たり前であるが、工夫を凝らし、情報は必要なところに集まってくるものである。当時の下田の激震させた地震とその被害。薩長を主体とする尊王攘夷に圧され幕府は崩壊状態に。それらバックグラウンドもツボを押さえてくれている。

歴史小説は、幕末期を含めて複数読みつけているとピース・ピースが徐々に形作られて理解が深まってくる。これも歴史物を読む楽しみの一つでもある。

新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上) (講談社文庫)
吉村 昭
4062778521
登録情報
文庫: 320ページ
出版社: 講談社; 新装版 (2014/6/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4062778521
ISBN-13: 978-4062778527
発売日: 2014/6/13
新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(下) (講談社文庫)
吉村 昭
4062778882
登録情報
文庫: 320ページ
出版社: 講談社; 新装版 (2014/6/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4062778882
ISBN-13: 978-4062778886
発売日: 2014/6/13

内容(「BOOK」データベースより)
【上巻】江戸幕府に交易と北辺の国境画定を迫るロシア使節のプチャーチンに一歩も譲らず、領土問題にあたっても誠実な粘り強さで主張を貫いて欧米列強の植民地支配から日本を守り抜いた川路聖謨。軽輩の身ながら勘定奉行に登りつめて国の行く末を占う折衝を任された川路に、幕吏の高い見識と豊かな人間味が光る。

【下巻】クリミア戦争で英仏と戦う祖国を離れて折衡に臨むプチャーチンの艦船が地震、津波で被害を受けて沈没し、乗組員五百人が上陸する事態に。厳しい折衝を終え、幕府の配慮で完成した「戸田号」で帰国の途につくプチャーチン。日露関係のみならず、日本外交史において最大の功労者ともいうべき川路聖謨の生涯。





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