『高熱隧道』吉村 昭(著) 2016
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木曜日

吉村昭氏、前回の「闇を裂く道」に続いてトンネル小説。実話と架空人物を登場させ、本作も緊張感と威圧感で圧迫され通しである。トンネルと一般的に呼ばれるようになる前は「隧道(ずいどう)」と言われていた。時は昭和11(1936)年~昭和15(1940)年、場所は黒部、工事の内容は第三発電所まで水を落とすための水路トンネル、そして軌道トンネル(電力会社専用鉄道)である。

さて、掘り進むうち岩盤層は当初の調査を完膚無きまでに裏切り、徐々に岩肌温度は熱くなるばかり。150度の温度計は壊れた。ついに岩盤温度は摂氏165度に達した。その困難をどのように技師が工夫して工事を進めたか、人夫、人夫頭がどれだけの疲労・意地をかけて乗り越えていったかが克明に綴られている。また、ダイナマイトで発破を仕掛け、ズリ(土砂)を運び出しながら掘り進めるのだが、岩盤の高熱に伴いダイナマイトが自然発火する大事故が起きた。これまた凄さまじい描写であるが、所長のとった態度、これにも胸を打たれるのである。また宿舎が泡雪崩(ほうなだれ)によって二度までたたき壊されてしまう。ひとつは2階以上建物すべてが500メートル以上も吹き飛ばされ崖に衝突し木っ端みじん。その風速は1000メートルともいう。(ウィッキペディアは風速200メートル程度と解説されているが) 二度目の宿舎は慎重に建設地を熟慮して建て直されたのだが、またもや泡雪崩に遭う。70センチにもなる大木が根本からなぎ倒され、飛ばされ、幹の上部から宿舎の屋根に直撃、突き刺さった。1階まで貫いた。または叩きつけるように降り注いだ。火が燃え移り大火災となった。

歩荷(ぼっか)の墜落、ダイナマイト事故、雪崩による死亡、300名以上の犠牲を出して完成したのであった。大自然を前に人間の力は無謀なまでに儚く弱い。自然に立ち向かうことが「悪」「自暴」ではないかとも思われる。それを克服していこう、完遂させようとする人間の「うぬぼれ」「欲張り」には際限がないとも思うのである。




参考写真出典:
ウィッキペディア:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E7%8D%84
亜州鉄道日記:http://blog.livedoor.jp/asianrailroad/tag/%E9%BB%92%E9%83%A8%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88
湘南日々日記:http://shonanhibiki.blog.fc2.com/blog-entry-49.html

高熱隧道 (新潮文庫)
吉村 昭
4101117039

登録情報
文庫: 237ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1975/7/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101117039
ISBN-13: 978-4101117034
発売日: 1975/7/29

内容(「BOOK」データベースより)
熱海―三島間を短時間で結ぶ画期的な新路線・丹那トンネルは大正7年に着工されたが、完成までに16年もの歳月を要した。けわしい断層地帯を横切るために、土塊の崩落、凄まじい湧水に阻まれ、多くの人命を失うという当初の予想をはるかに上回る難工事になった。人間の土や水との熱く長い闘いを描いた力作長篇。






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