『ブラッド・メリディアン』コーマック・マッカーシー(著) 2015
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コーマック・マッカーシーは越境三部作を読んでからのファンになりつつある。本作は、乾いた飄々としたアメリカ南東部、時は1840年から1870年後半。荒くれ者が非正規軍としてインディアンを掃討すべく行く先々でそれらを虐殺し、頭の皮を剥がす物語である、といえば単純過ぎるが外れてはいない。少しだけ屠殺の描写をピックアップする。これはその一例、無限大にユーモラスである。
(本文:142頁)”・・白人ジャクソンが酔眼をあげた瞬間黒人ジャクソンがさっと前に出てナイフの一振りで首を刎ねた。黒っぽい血の太い綱が二本と細い綱が二本、蛇のように首の切り株から立ちあがり弧を描きながら火に落ちてしゅうっと音を立てた。首は左のほうへ転がり元司祭の足もとで片目をむいた。元司祭のトビンは片足を引っこめ立ちあがり後ろにさがった。焚火は湯気を出し黒くなり灰色の煙をあげ綱のアーチはゆっくりと勢いを失ってシチューの小さな煮立ちのようになりまもなくそれも収まった。”
絶妙な比喩である。もう一例、次は虐殺された仲間の斥候を発見した描写である。
(本文:286頁)”一行は行方不明の斥候(せっこう:一言でいうと偵察隊)がパロベルデの枝から逆さ吊りにされているのを見つけた。両足のアキレス腱に鋭く尖らせた緑色の木の枝を通され灰色の裸の体がぶらさげられ頭の下には冷えた灰が残っていたがあぶられた頭は黒く焦げ頭蓋骨の中で脳が泡立ち花の穴に蒸気が歌いながら吹き出した後が残っていた。舌が引き出され尖った木片を刺されて引っ込まないように歯止めをされ耳朶が切り取られ腹は火打ち石で斬りさかれて内臓が胸まで垂れ落ちていた。”
なるほど、気持ち悪い本なのだなと印象付けてしまいそうだが、そうともいえるがそうではない。人の心を炙る深遠で直球な背景が迫ってくるのである。殺伐とした情景、灼熱砂漠、満天の星空、吹雪く白銀世界、喉の渇き、知らずに息を止めてしまっている悪臭、どろどろの血が目の前で飛沫となり展開する。これに似たような出来事は実際にあったであろうアメリカの恥部も露呈している。

ブラッド・メリディアン
コーマック・マッカーシー 黒原敏行
4152090936
登録情報
ハードカバー: 432ページ
出版社: 早川書房 (2009/12/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4152090936
ISBN-13: 978-4152090935
発売日: 2009/12/18

内容(「BOOK」データベースより)
少年は、十四歳で家出し、物乞いや盗みで生計を立て各地を放浪していた。時はアメリカの開拓時代。あらゆる人種と言語が入り乱れ、荒野は暴力と野蛮と堕落に支配されていた。行くあてのない旅の末、少年は、以前より見知っていた「判事」と呼ばれる二メートル超の巨漢の誘いで、グラントン大尉率いるインディアン討伐隊に加わった。哲学、科学、外国語に精通する一方で、何の躊躇もなく罪なき人々を殺していくこの奇怪な判事との再会により、少年の運命は残酷の極みに呑み込まれるのだった―。『ニューヨーク・タイムズ』紙上で、著名作家の投票によるベスト・アメリカン・ノヴェルズ(2006‐1981)に選出。少年と不法戦士たちの旅路を冷徹な筆致で綴る、巨匠の代表作。

著者について
1933年、ロードアイランド生まれ。トマス・ピンチョン、ドン・デリーロ、フィリップ・ロスと並び称される現代アメリカ文学の巨匠。
大学を中退すると、1953年に空軍に入隊し四年間の従軍を経験。その後作家に転じ着々と評価を高め、〈国境三部作〉の第一作となる第六長篇『すべての美しい馬』(1992)(ハヤカワepi文庫)で全米図書賞、全米批評家協会賞をダブル受賞。第九長篇『血と暴力の国』(2005)は、2007年度アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した映画《ノーカントリー》の原作となった。その後、2006年発表の『ザ・ロード』(早川書房刊)は、200万部超のベストセラーを記録し、ピュリッツァー賞を受賞。著者の名声を不動のものとした。
1985年発表の本書は、2006年に《ニューヨーク・タイムズ》紙上で著名作家他の投票による過去四半世紀のベスト・アメリカン・ノベヴェルズの一冊に、《タイムズ》誌による1923-2006年ベスト英語小説100の一冊にもそれぞれ選出された名実ともに著者の代表作である。






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