『64』横山秀夫(著) 2015
10/3
土曜日

横山秀夫氏の作品は、「半落ち」「深追い」「影の季節」「動機」「クライマーズ・ハイ」「臨場」「影踏み」「看守眼」を読んだ。

本書は9冊目となったが著者の作品群で最大級の質・量・内容を内包・誇示しているのではないか。被害者と犯人、キャリア組と叩き上げ、ポストの魅力と威圧、組織間のセクショナリズム意識、報道機関との軋轢と強調、テンポ良く事件は錐もみ展開していく。横山節の魅力のひとつは会話にある。刑事として広報官としてペルソナで覆い相手の思考を目で刺し、期待する会話を引き出すためのコトバを投げ込む。他の魅力として毎度のことながら描写表現のキレがいい。上手い。そして、本書の登場人物を人間たらしめん、感情移入させしめんための伏線が潤沢に潜入している。家族、元警官で美人の妻、鬼瓦と揶揄される主人公、母のDNAは引き継げず父のDNAを十分引き継いで器量の悪さを嘆き苦しみ家出した娘、自他とも認め認められ出来る刑事でありながら広報へ飛ばされた刑事部屋への未練・憤悶。主人公が何ひとつ欠点もない万能型人間であれば誰一人として主人公に惹き付けられはしない。自分に投影し重複する部分が微弱でも存在すれば感情移入もし応援もしたくなるものである。いや、してしまうのである。「悩む、苦しむ、考える」これがストーリーを牽引する。
本書に勇気づけられもし、涙も誘われもしながら「さっさと次のページを捲らせろ」と幸せな時間を与えてくれた。

64(ロクヨン)
横山 秀夫
4163818405
登録情報
単行本: 647ページ
出版社: 文藝春秋 (2012/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4163818405
ISBN-13: 978-4163818405
発売日: 2012/10

内容(「BOOK」データベースより)
警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。






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