『魔法の樽(他十二篇)』バーナード・マラマッド(著) 2015
9/21
月曜日

マラマッド(マラムードと読むこと?もある-malamud-)作品は、アシスタント修理屋に続く三作目となる短篇集「魔法の樽」(1958)を読んだ。彼の根底にあるのは「ユダヤ」、「正直」、「勤勉」、「貧しさ」で構築されており、時代も大戦(第一次、第二次)後の復興しながらもまだ道半ばの時代背景が多い。「いくら働けど貧から脱出できず」の構図で、「ほんとうに汗水垂らしても一向に楽にならぬのはほんとうなんじゃな、おぬし」と勘繰りもするが、ユダヤ人は長らく虐げられた隔離社会、抑圧政治、行動制限された過去の重石で覆われているからだろうともいえるのだ。「ユダヤ」とは広義では、狭義ではどこまでをいうのか、マラマッドを読んで余計に混乱した箇所もあるのだが、無意識に無作為に他の書物を読んでいると不思議とこれらのフィクションの事柄もピースがはまることもあるものなのだ。
さて、全一三篇のタイトルは、

  1. はじめの七年
  2. 死を悼む人々
  3. 夢に見た彼女
  4. 天使レヴィン
  5. 「ほら、鍵だ」
  6. どうか憐れみを
  7. 牢獄
  8. 湖の令嬢
  9. ある夏の読書
  10. 請求書
  11. 最後のモヒカン族
  12. 借金
  13. 魔法の樽


が編纂されている。
イタリア、ローマを舞台にした短篇もあり、ゲットー「1555年5月に狂信的な反ユダヤ主義者だったパウルス4世が教皇に選出されると方針が転換された。彼はユダヤ教にはキリスト教を脅かす致命的影響力があると妄信しており、教皇に選出されてわずか二カ月後に勅書を出し、ローマのユダヤ人の隔離を命じた。(ウィキぺディア出典)」など、歴史を振り返る、ちょこっと調べる機会を与えてくれた。ウィットで笑える作品も多いし、宗教色を脱色させずとユーモアチックに楽しめる。短編の効能は息苦しいテーマでもものの30分もすれば開放されるのは救いではないか。

魔法の樽 他十二篇 (岩波文庫)
マラマッド 阿部 公彦
4003234014
登録情報
文庫: 416ページ
出版社: 岩波書店 (2013/10/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 4003234014
ISBN-13: 978-4003234013
発売日: 2013/10/17

「それを教えることはできません」 聖職者(ラビ)を目指して勉強中の青年が頼るうらぶれた結婚仲介業者は、青年が目にとめた写真の女性にだけは会わせてくれない。この女は何なのか……? ニューヨーク下町のユダヤ人、暗い現実に光が差し込む表題作ほか、イタリアでの新旧世界のギャップを描いた「湖の令嬢」など、現代のおとぎ話十三篇。







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