? 『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス(著)
『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス(著) 2014
7/10
木曜日

本書『The Brief Wondrous Life of Oscar Wao(邦題:オスカー・ワオの短く凄まじい人生)』は、
 ・全米批評家協会賞 2007年
 ・ピューリッツァー賞 フィクション部門 2008年
を受賞している。
「だから、どうかしましたか?」ではないのだけれど、名誉ある賞を二つも授賞するには、それだけの理由がある、と勘ぐりたくもなるし、勘ぐってみた。すると、結局、それは、やはり、受賞は妥当なことだ、とピューリッツァー賞審査員のような気持ちになった。フムフム頷いてよい。

ストーリーはドミニカ共和国でヒトラーよりアクドイ独裁者だったトルヒーヨ時代に、不運にも牢獄・虐殺された医者、その妻の看護婦を出だしに歴史は紡がれていく。その両親に生まれた三人娘の末っ子は、パラシュートなしで10000メートルから地上に叩きつけられたような衝撃で不運・呪いを引き継いだ。裕福な家庭であったにも関わらず、末っ子は、父は既に獄中、生まれた早々、母が事故死した。人身売買は普通の出来事であるドミニカで、貧困地帯に売り飛ばされ、奴隷以下の扱いを受けていた。その窮地を救ったのは、父のいとこであった信心深い女性で、その子の母となって育てた。その娘もやがて母となり、訳ありのふたりの子供(姉、弟オスカー)を授かった。時代を区切った章立てで構成されている。これらを中心とした人間模様が織り成す、激辛な人生が、台風900hPaのすさまじい現実色彩で迫ってくるのだ。

数奇な運命、ドミニカでは昔から「フク」と呼ばれる呪いと言ってしまえば簡単なのだが、実はお話はそれほどには簡単ではなかった。祖父・祖母⇔母⇔姉、弟がつかみ合いながら、ののしりあいながらも、家族愛に包まれているシーンに安らぎも覚えるし、苛立ちも募る。そして叔父や友達、彼氏、ギャング、独裁者トルヒーヨの入り乱れ、踊り食い的様相を呈していくのである。

著名にもなっているオスカー、このオスカーが超オタクで、デブで、女性にムラムラ興味津々で、数秒で一目惚れするにも関わらず、年間雨量3ミリの不毛の地の如く女性乾燥体質でモテナイ。彼女ができないでいた。オタク=ネクラ=デブの構図があろうが(全部がそうと思っているわけではないので誤解なく)、ストーリー中でもゲーム、アニメ、小説、映画、テレビドラマからの話題が摘要され、文章に織り込まれ、マニアックなブレンドで男オタク臭い芳しさもあるのだ。


S.キングお勧め本から洋書を片っ端から読み進めているが、今のところ外れがない。新規作家の開拓もでき、読みたい本の裾野が広がりを見せていることは嬉しい。嬉しい。とっても嬉しい。

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)
ジュノ ディアス Junot Diaz
4105900897
登録情報
ハードカバー: 414ページ
出版社: 新潮社 (2011/02)
言語: 日本語, 日本語, 日本語
ISBN-10: 4105900897
ISBN-13: 978-4105900892
発売日: 2011/02

内容(「BOOK」データベースより)
オスカーはファンタジー小説やロールプレイング・ゲームに夢中のオタク青年。心優しいロマンチストだが、女の子にはまったくモテない。不甲斐ない息子の行く末を心配した母親は彼を祖国ドミニカへ送り込み、彼は自分の一族が「フク」と呼ばれるカリブの呪いに囚われていることを知る。独裁者トルヒーヨの政権下で虐殺された祖父、禁じられた恋によって国を追われた母、母との確執から家をとびだした姉。それぞれにフクをめぐる物語があった―。英語とスペイン語、マジックリアリズムとオタク文化が激突する、全く新しいアメリカ文学の声。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞をダブル受賞、英米で100万部のベストセラーとなった傑作長篇。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ディアス,ジュノ
1968年ドミニカ生まれ。6歳のときに家族で渡米。父親が失踪、兄は白血病を患い、窮乏状態の中で育つ。皿洗い、ビリヤード台配達、製鉄業などの仕事をしながら、ラトガーズ大学とコーネル大学大学院で文学と創作を学ぶ。『ニューヨーカー』『パリス・レヴュー』などに寄稿、The Best American Short Storiesには4度、作品が収録されている







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