『怒りの葡萄』スタインベック著 2014
6/8
日曜日

本書は、1939年(第二次世界大戦が勃発するのはこの2年後)のスタインベック手による作品である。ピューリッツァー賞を受賞している。

章構成が独特で、全編三十章の奇数章は中間章(物語の筋とは独立した物語の背景、社会条件、自然的、地理的諸条件)を表し、偶数章では、筋の展開の叙述に充てられている。しかも、登場人物の誰一人として心理を描いておらず、すべて外部から、行動を通じて把握されている。(一部、解説参照)


日常の描写が詳細。(脳裏に景観や季節、暖かさ・寒さが、そして登場人物の表情が形成されていく)時代はオクラホマの1930年台。アメリカ中西部で深刻化したダストボウル(土地の荒廃による砂嵐)により、所有地が耕作不可能となって流民となる農民が続出し、社会問題となった出来事をテーマにそれに立ち向かう、一家族の視点で描かれている。(一部、ウィッキペディア参照) 乾いた時代、貧しい生活を送りながら、カリフォルニアに夢を抱いて向かった。幸せで明るく家族が豊かに暮らせると考えた。だが、そうではなかった。現実のそれは楽観するには程遠い艱難辛苦の旅だった。旅の苦労は序文でしかない次に待ち受けていた現実とは・・・。淡々と叙述される日常。今でこそアメリカはある意味豊かな国(これは事実を知らないところも多々あるにせよ)となっているが、農民が先祖から開拓した土地を奪い取られた悲しみ。その中で、家族の絆、または同じ境遇の者同士の結びつき、持てる者と、持たざる者とのギャップが1930年代のアメリカを象徴しているのかもしれない。しかし、持たざる貧乏は相手を思いやり、助け合う扶助の精神を育んだのに比して、持つものは貧困層を蔑視した、結果的に。苦労は人に優しく接する心や力の栄養剤になる。僕はそう信じている。そして、自分で言うのもなんだが、職業や収入や知能指数の良し悪しで人を見下したり、優越感に浸ったことは、生まれてこの方一度もない。

(※注1)ダストボウル:天災というよりは人災に近く、何十年にもわたる不適当な農業技術が原因となった。過剰なスキ込みによって草が除去され、グレートプレーンズの肥沃土は曝された。日照りが続くと土は乾燥して土埃になり、それが東方へと吹き飛ばされ、ほとんどは巨大な黒雲となった。雲ははるばるシカゴの空まで黒くし、土の大部分は完全に大西洋へと失われた。(ウィッキペディア参照)

怒りの葡萄 (上巻) (新潮文庫)
スタインベック 大久保 康雄
4102101047
登録情報
文庫: 448ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1967/5/25)
言語: 日本語
ISBN-10: 4102101055
ISBN-13: 978-4102101056
発売日: 1967/5/25
怒りの葡萄 (下巻) (新潮文庫)
スタインベック 大久保 康雄
4102101055
登録情報
ペーパーバック: 468ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1967/5/15)
言語: 日本語, 日本語, 日本語
ISBN-10: 4102101047
ISBN-13: 978-4102101049
発売日: 1967/5/15

内容紹介
一夜にして畑を砂丘にしてしまう自然の猛威と、耕作会社のトラクターによって父祖伝来の地を追われた農民一家の不屈の人生を描く。







Copyright (C) 2014 Shougo Iwasa. All Rights Reserved.