『黒船』吉村昭著 2014
5/13
火曜日

本書は、江戸幕府の時代、通詞(通訳)として、黒船来航の折、筆頭通詞を勤めた堀達之助の生涯を綴ったお話である。通詞は世襲制度があって、代々、脈々と受け継がれ、また、通詞にも家の格がものを言う時代でもあった。

江戸時代はご存知のとおり鎖国制度を採っており、オランダ・中国が長崎の一部で貿易がされていた(出島)。然るに、オランダ語ができる通詞が自ずと重宝された。しかし、幕末の諸外国が日本との通商を求めてくるにつれ、英、米との交渉がウェイトを増し、英語ができる通詞が注目をあびたのは自明の理といえた。尊皇攘夷⇔開国とがぶつかり合い、荒れ狂う時代、開国へ向かおうとする幕府派と、それに反する攘夷派との血で血を洗う生臭い世の中であった。そのあたりの史実背景も適切に盛り込まれている。このように幕末・明治維新の本を何冊か読んでいると、いろいろな出来事と出来事が繋がって、全体像が見えてくるのは書物の楽しみ方のひとつだ。

達之助が不運な冤罪ともとれる牢獄に囚われ、その後、どのようになっていったかは、本書を読む方の楽しみを削いでしまうので、書くのは野暮ってものだろう。

悪しからず。

黒船 (中公文庫)
吉村 昭
4122021022
登録情報
文庫: 448ページ
出版社: 中央公論社 (1994/06)
ISBN-10: 4122021022
ISBN-13: 978-4122021020
発売日: 1994/06

内容(「BOOK」データベースより)
ペリー艦隊来航時、主席通詞としての重責を果たしながら、思いもかけぬ罪に問われて入牢すること四年余。その後、日本初の本格的な英和辞書「英和対訳袖珍辞書」を編纂した堀達之助。歴史の大転換期を生きた彼の劇的な生涯を通して、激動する時代の日本と日本人の姿を克明に描き尽くした雄編。







(2014/05/13 22:12)


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