『病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘』(下巻)シッダールタ・ムカジー 著 2014
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金曜日

「癌の伝記」と言えなくもないが「がんの半世紀」がフィットする、上巻に続く下巻”ピュリッツァー賞”受賞作品である。

本書は知的獲得・渇望をさらっと満たしてくれるが、がん撲滅にかける人々の情熱に逆らうか如く、”これでもか的ながん”の驚異に驚嘆するばかりでもある。「がん」というものを病理学的見地から、医者・生物学者・科学者・腫瘍医の見地から、患者の見地から見据えてスパイラル&ドラスティックライクなアプローチが読者を魅了させるのかもしれない。ノンフィクションという、これほどの強み、怒濤のリアリティが何波となって幾たびも押し寄せてくる。身構えて読まないと、悪魔全開パワーに押し潰されてしまうだろう。文中から、ピックアップさせていただこう。「うーーん、読んでみようか知らん」となるのは必至であるが、それは各自の自由である。

われわれは身体と社会から、がんを永久に消し去ることはできるだろうか?

これらの問いに対する答えは、この驚くべき病の生物学的特徴のなかにある。われわれはがんがヒトのゲノムに縫い込まれていることを知った。がん遺伝子とは正常細胞の増殖を制御する重要な遺伝子が変異したものである。変異の蓄積は発がん因子によるDNAの損傷によって起きるが、細胞分裂の際に偶然に起きるDNAのコピーミスによっても生じる。前者は予防可能だが、後者は内因性である。がんはわれわれの成長における欠陥であり、その欠陥はわれわれ自身の奥深くにかくまわれている。がんを身体から取り除くことは可能だが、取り除けるのは、成長に依存しているわれわれの生理機能-老化、再生、治療、生殖-のうち、取り除いても差し支えない部分だけだ。

科学は自然を理解したいという人間の欲求を具現化したものであり、テクノロジーは、科学のその欲求に自然を支配したいという野望を組み合わせたものだ。その二つの衝動はたがいに関連しあっている(自然を支配するにはまず、自然を理解しなければならない)が、自然に介入したいという衝動はテクノロジーに独特のものだ。となれば医学は本質的に、テウノロジカル・アートだといえる。医学の根底には、生命そのものに介入して人間の生命を改善したいという欲求があり、概念上、がんとの闘いはテクノロジーをその限界まで推し進めたものである。なぜならその介入が可能なのかどうかすらわからない。支離滅裂で多産で侵略的で適応能力の高いわれわれ自身の細胞および遺伝子にとっての双子の兄弟である、支離滅裂で多産で侵略的で適応能力の高いがんを、われわれの身体から切り離すのは、ひょっとしたら不可能なのかもしれない。もしかしたらがんは、われわれに本来そなわった生存の限界といったものを規定しているのかもしれない。細胞が分裂を重ねてからだが老化するあいだに変異が積み重なって発生するがんは、もしかしたら、生物としてのわれわれの発達の最終到達点なのかもしれない。・・・・

病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上
シッダールタ・ムカジー 田中文
4152093951
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登録情報
単行本: 418ページ
出版社: 早川書房 (2013/8/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4152093951
ISBN-13: 978-4152093950
発売日: 2013/8/23
病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 下
シッダールタ・ムカジー 田中文
415209396X
登録情報
単行本: 402ページ
出版社: 早川書房 (2013/8/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 415209396X
ISBN-13: 978-4152093967
発売日: 2013/8/23

内容紹介
ピュリッツァー賞
ガーディアン賞
PEN/E・O・ウィルソン賞受賞!
《ニューヨーク・タイムズ》ベストブック
《タイム》オールタイム・ベスト・ノンフィクション選出!

仲野徹氏(大阪大学大学院教授)絶賛!
「読み始めてあまりの面白さに驚嘆した。数多くのエピソードが、一本の大樹のようにみごとにまとめられ、ミステリーを読むかのように一気に読み終えることができる。(本書解説より)」

■ムカジーの手にかかれば、科学は単にわかりやすいだけでなく、スリルに満ちたものへと変わる……読みはじめたら止まらない、高揚感に包まれた鮮やかな物語。 ――《オプラ・マガジン》

■綿密な調査によってがんの歴史の全貌を浮き彫りにする物語……苦労に満ちた研究の軌跡を、ミステリ小説のような緊迫感とともに描き出すムカジーに筆力にはただただ驚かされる。
――《ボストン・グローブ》紙

■歴史上最もすばらしい医学の本のひとつである。
――《ニューヨーク・タイムズ》紙

地球全体で、年間700万以上の人命を奪うがん。紀元前の昔から現代まで、人間を苦しめてきた「病の皇帝」の真の姿を、患者、医師の苦闘の歴史をとおして迫真の筆致で明らかにするノンフィクション。

古代エジプトのパピルスにイムホテプはこう記した「この病の治療法はない」。この病を「カルキノス」と呼んだ医聖ヒポクラテスもまた「がんは治療しないほうがよい。そのほうがより長く生きるから」と述べている。人類は4000年にわたって、この怖るべき病気と闘い続けてきた。
外科手術による病巣の切除、X線による放射線療法、抗がん剤と骨髄移植を組み合わせた超大量化学療法、さらに「がんに対する魔法の弾丸」になると期待される分子標的療法……
不治の病から治癒可能な病へといたるその治療の歴史と、「がん」をめぐる患者、医師、研究者たちの人間ドラマを見事に描きだした「病の皇帝」がんの伝記。
内容(「BOOK」データベースより)
地球全体で、年間700万以上の人命を奪うがん。紀元前の昔から現代まで、人間を苦しめてきた「病の皇帝」の真の姿を、患者、医師の苦闘の歴史をとおして迫真の筆致で明らかにし、ピュリッツァー賞、ガーディアン賞を受賞した傑作ノンフィクション。







(2014/02/28 23:01)


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