『キスカ島 奇跡の撤退: 木村昌福中将の生涯』将口泰浩著 2013
11/20
水曜日

先日、DVDで観た三船敏郎主演(『太平洋奇跡の作戦 キスカ』(1965年/東宝)を契機に文献でも抑えておきたい史実だと強く感じた。今回は2冊買った書籍のひとつの感想である。

キスカ島(きすかとう:英語: Kiska island)はアリューシャン列島西部のラット諸島に位置し、アメリカ合衆国アラスカ州に属する島がある。(出典:ウィッキペディア) 何もないツンドラ表土に覆われた無人の島である。第二次世界大戦中、キスカ島から300km離れたアッツ島で二千数百名が玉砕してしまう惨い戦場となった。隣伝いとなるキスカ島でも五千数百名の陸軍・海軍の兵士が守備を固めていた。ここで、これらの兵士まで見殺しにはできない、救助せよ、との命を受けたのが木村 昌福(きむら まさとみ)少将だった。

日本帝国では「撤退」というキーワードはタブーであり、恥であり、実質はスタコラさっさと遁走する時でさえ、面子を捨てきれず「転進」と銘打ってきたのだった。

さて、この主人公となる木村少将の人間性、人柄に大いに引き込まれる本書である。

キスカ島 奇跡の撤退: 木村昌福中将の生涯 (新潮文庫)
将口 泰浩
4101384118
登録情報
文庫: 305ページ
出版社: 新潮社 (2012/7/28)
言語 日本語
ISBN-10: 4101384118
ISBN-13: 978-4101384115
発売日: 2012/7/28

内容(「BOOK」データベースより)
昭和18年、壮絶な玉砕で知られるアッツ島の隣島キスカからの撤退は、完璧に成し遂げられた。陸海軍将兵5183名の全てを敵包囲下から救出したのだ。指揮を執ったのは、木村昌福。海軍兵学校卒業時の席次はかなりの下位。だが、将たる器とユーモアをそなえ、厚く信頼された男だった。彼の生涯と米軍に「パーフェクトゲーム」と言わしめた撤退作戦を描く。

※参考DVD
太平洋奇跡の作戦 キスカ【期間限定プライス版】 [DVD]

木村昌福氏の上に立つ人の潔さとして、リーダシップ、経営的視点から、現在も数多溢れるビジネス本に共通するファクターがあり、彼は自慢することなく、名誉心に浮かれることなく、上部に媚びることなく、自然体で実践できた人物といえよう。

・仕事を部下に任せたら、信頼し、こと細かく口ははさまない
・部下が迷い、責任が部下に及ぶときは、明確に判断し、責任を自ら負う
・一兵にまで気を配り、健康面の配慮をし、司令官にありがちな押し付けがましさが全くない
・危険なときほどドンと構えて、笑い飛ばし、部下に動揺を伝播・拡散させない
・自分の艦・命に危害が及ぶことも厭わず、沈没した乗組員を救助するほどの人の命を大切にする

これらは一部だが、このような人物像であるからこそ、「キスカ島撤退作戦」が成功したのだろう。制海権・制空権は既にアメリカの手に落ちていたために兵士の救助は濃霧を頼りに、その間隙を縫って救助の計画が練られるが、一回目の救助はキスカ島に近づくにつれ、霧が晴れてきた。当時の日本軍的には危険を顧みず敢行するところであるが、「帰ろう、そうすれば、また来ることができる」と。一回目の救助活動を中止し、帰投した木村少将、先任参謀は激烈な批判を浴びることになった。しかし、中止する判断をとることができるということは、臆病風に吹かれたのではなく、実に信念強く、辛抱強く、自分の評価を気にすることなく、本来の目的を達するためにどうするかを考えて行動することができ、非難・誹謗にもひれ伏すことのない人と捉えていいのではないだろうか。

戦争とは空しいものではあるし、人の命は地球よりも重いものであるが、軍人にも木村昌福のような人、それとは真逆な人もいる。同じ死ぬのにしても、”この上官のためなら命も惜しくない”となるか、”犬死ではないか”となるか、極楽と地獄、良薬と毒薬ほどの差があるだろう。仮に、僕が戦時時代に生まれ育って軍人となっていたのなら、前者の人の下で仕えるか、前者のような人になって部下を導きたいと思う。






(2013/11/20 21:18)


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