『クライマーズ・ハイ』横山秀夫著 2013
6/6
木曜日

いい本だった。これは映画にもなったのでご覧になった諸氏も多いことだろう。(私は観ていないが・・)
横山秀夫という作家の本は半落ちをはじめ、デカ物を数冊読んだことはある。彼は作家としてプロ中のプロだ。的確な表現、無駄を削いだ文体は、僕の中では他作家の追従を許さないのではないか、と感じる。且つ、心情を揺さぶり泣かすのことも忘れていないのだから、これまた曲者作家ともいえよう。

読み手からして、何故、この人物は悲しむのか、うれしいのか、苦しむのか、怒るのか、どうして、その言葉を紡ぐのか、それが読者の胎にキチンと落ちないと辛い。(遅くとも話が終わるまでには・・・) そうでなければ小説に没頭できないではないか。ストーリーにも不信感を抱いてしまう。結末まで読んでも支離滅裂で視点がぼやけたままで、主役は言うに及ばず、あの脇役は結局のところ、どうなってしまったんだ?では読後も後味が悪い。起承転結の帳尻は合わせないといけない。更に付け加えるならば、読み手の側に余韻を残し、自分が想像できる部位を残しておいてくれることも疎かにしてはいけない。作家が全てを食い散らしてしまうようでは、何を言わんや、である。

これらの掟を破ることなく、読み手の気持ちを汲んで、読者の心中をキチンと箒で捌いてくれるのが「横山秀夫」という作家である。

本書も地方新聞社を舞台に、日航機墜落事故という未曾有の大事故を題材にし、荒くれる人間模様、信頼感と不信感、熱血漢と冷血漢、そして過去の生い立ちを捻じり込みながら、これらがピンポン・ガサガサとぶつかりながら、渦巻きながら、フラッシュバックしながら、話は進展していく。最終的には読み手を、終着点に安全に降ろしてくれていることに気付く。
横山秀夫氏は、プロの作家だ。

帰宅時にDVDを借りてきた。今から観てみよう。

クライマーズ・ハイ (文春文庫)
横山 秀夫
4167659034
登録情報
文庫: 471ページ
出版社: 文藝春秋 (2006/06)
ISBN-10: 4167659034
ISBN-13: 978-4167659035
発売日: 2006/06

内容紹介
85年、御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元新聞記者たちの悲喜こもごも。上司と部下、親子など人間関係を鋭く描く。

北関東新聞の記者・悠木は、同僚の安西と谷川岳衝立岩に登る予定だったが、御巣鷹山の日航機墜落事故発生で約束を果たせなくなる。一方、1人で山に向かったはずの安西は、なぜか歓楽街でクモ膜下出血で倒れ、病院でも意識は戻らぬままであった。地方新聞を直撃した未曾有の大事故の中、全権デスクとなった悠木は上司と後輩記者の間で翻弄されながら、安西が何をしていたのかを知る――。 実際に事故を取材した記者時代の体験を生かし、濃密な数日間を描き切った、著者の新境地とも言うべき力作。

若き日、著者は上毛新聞の記者として御巣鷹山の日航機事故の 現場を取材しました。18年という長い時を経て初めて、その壮絶な体験は、 感動にあふれた壮大な長編小説として結実しました。それが本作品です。

――記録でも記憶でもないものを書くために、18年の歳月が必要だった。横山秀夫







(2013/06/06 20:30)


Copyright (C) 2013 Shougo Iwasa. All Rights Reserved.