『仮釈放』吉村昭著 2013
5/17
金曜日

皆さんは、堀の中に入られたことがありますか?
(聞く方もアレだが、聞かれたほうも困る)

罪を犯し、刑期が言い渡され、懲役xx年、無期懲役と言い渡されたとしましょう。
堀の中ではいろんな事があるのでしょうが、規律を守り、他の囚人の見本となるように心掛けていると、仮釈放というのがあります。無期懲役であっても、それに値すると審査されると、堀の外に出ることができます。これは犯罪者予防更正法に基づく仕組みのようです。

ただし、懲役15年の人が13年経ち、仮釈放されると、残りの2年間は保護司の観察を受け、問題なく社会生活が営めたのなら、普通の人に戻れます。では無期懲役者はどうかといいますと、死ぬまで、一生保護観察下に置かれます。恩赦という制度もあるようですが、無期懲役者が恩赦を受けるのは希有なことのようです。

さて、話の中で、殺人罪に問われ無期懲役となった主人公は私とほぼ同じ年、16年の間、刑務所で過ごし、仮釈放されるわけですが、日々の生活の中で、怯え、自分の過去を知られることを恐れます。これほどまでに自制的になれるものか、と感じました。
また、文中登場する千葉の複数の某所は自分でも勝手知ったる場所であったり、リアリティを一段と増長されてくれたのでした。

しかし、しかし、何ですか、この結末・顛末。
ここまで主人公を追い詰めてしまった、蝕めてしまった彼のうちなる葛藤にやりきれぬ想いです。本当の悪人もいるでしょうが、人を殺めようとして殺してしまったわけではない、この主人公。こうしたことは小説外の現実でも事実あるはずです。このような人には情状酌量の余地があってもいいのでは、とはいえども被害者の家族にとっては、それはそれは許し難いことでしょう。殺されたその人は戻ってくることはないのですから。

まとまりはありませんが、ひょっとして他人事ではないと考えて読めば、背筋がピンと伸びる本でしょう。

仮釈放 (新潮文庫)
吉村 昭
4101117292
登録情報
文庫: 292ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1991/11/28)
ISBN-10: 4101117292
ISBN-13: 978-4101117294
発売日: 1991/11/28

※内容紹介
浮気をした妻と相手の母親を殺して無期刑に処せられた男が、16年後に仮釈放された。彼は与えられた自由を享受することができるか?

※内容(「BOOK」データベースより)
浮気をした妻を刺殺し、相手の男を刺傷し、その母親を焼殺して無期刑の判決を受けた男が、16年後に刑法にしたがって仮釈放された。長い歳月の空白をへた元高校教師の目にこの社会はどう映るか?己れの行為を必然のものと確信して悔いることのない男は、与えられた自由を享受することができるか?罪と罰のテーマに挑み、人間の悲劇の原型に迫った書下ろし長編小説。








(2013/05/17 21:58)


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