「バイポーラ-(双極性障害)ワークブック」から第7章「「否認」の壁の克服」の要点をピックアップしたい。
【参考文献】
chapter1:疾患をコントロールする
chapter2:双極性障害の実際
chapter3:自分の経緯を図式化する
chapter4:早期予防システムを発動させる
chapter5:自分自身を強化する
chapter6:薬物療法の効果を最大限に得る
chapter7:「否認」の壁の克服
chapter8:思考の誤りの認識と把握
chapter9:感情的な思考をコントロールする
chapter10:精神的メルトダウンを反転させる
chapter11:改善へ向けた変化
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バイポーラー(双極性障害)ワークブック―気分の変動をコントロールする方法
モニカ・ラミレツ・バスコ 野村 総一郎
双極性障害(バイポーラーディスオーダー)による「気持ちの揺らぎ」を抑制する具体的対処法を、認知療法的な手法を用いて、分かりやすく解説。ガイドライン(治療指針)は患者さんへの指導書として治療者が使用でき、障害を持つ患者さん自身が使う自習書としても最適な治療読本。
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本章では、
○双極性障害であることに対する自分の否認に徹底的に取り組む
○双極性障害の診断に適応していく段階について学ぶ
○適応過程において自分がどこに位置するかを学ぶ
○双極性障害の誤診がいかにして起こりうるか理解する
・自分は治療が必要な心の病を患っている、という考えに慣れるのは非常に難しいこと
(診断された当初は特にそう)
・納得し、治療を受けることを検討し始めるようになるまで、何年もかかる人もいる
(本書を読み始めていることは自分の病に対処するように向けて、歩み出したということ)
・否認には異なる形態があり、疾患の存在を裏付ける十分な根拠があるにも関わらず、
-診断に同意しない
-拒絶する
-自分は双極性障害でないと考えリチウムの服用を避ける
-(強い拒否感情の人は)双極性障害の診断を受け容れて薬を服用するよりも、症状とそれに伴う生活の
混乱に耐えるほうがましだと考えることもある
・診断を受け容れはしても疾患を軽視する場合がある
・自分の対処能力を過大評価し、他者に与えるネガティブな影響を過小評価してしまうことがある
■自動思考と行動 |
本書ではワークシート7.1に「双極性障害への適応の初段階」として、否認、怒り、取引、抑うつ、受容それぞれの自動思考、行動、自分の考え、自分の行動について例を挙げている
ワークシート7.1 双極性障害への適応の初段階 |
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段階
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自動思考 |
行動 |
否認
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・私は双極性障害ではない。医師が間違ったのだ。
・私がお酒を飲み過ぎていたことから、そんな診断をされたに違いない。
・その診断は間違っている。
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・セカンドオピニオンを受ける。
・症状に対するほかの説明を探す。
・知立OUの勧めを無視する。
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私の考え
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私の行動
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怒り
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・私がこんな疾患になるなんて不公平だ。
・今はこれに対処してなどいられない。
・どうして私なのか。いったい私が何をしたというのか。
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・アドバイスに耳を傾けようとしない。
・疾患について話し合おうとしない。
・医療関係者、薬局、誰だろうと治療に関係するほかの人に対して、癇癪を起こす。
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私の考え
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私の行動
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取引
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・行動を自粛する。
・お酒を飲むのを止め、時間通りに起きるようにする。運動を始め、もっと良い仕事を見つける。そうすれば大丈夫だろう。
・自然療法を試してみよう.私にはそれほど薬は必要ない。
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・自分で薬の用量を調整する。
・薬を飲む時間を変更する。
・作用力のある薬を「自然療法」に切り替える。
・睡眠薬を服用するのを避けるために遅くまで寝ないで起きている。
・不安を和らげるためにアルコールを飲む。
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私の考え
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私の行動
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抑うつ
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・私は普通の生活を送ることはないだろう。
・誰も私のことなど求めないだろう。
・私は自分が大嫌いだ。
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・事故は快適な行動をとる。
・医師、雑誌記事、ほかの何であろうと、疾患を思い出させるものを避ける。
・ほかの人から引きこもる。
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私の考え
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私の行動
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受容
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・私はこれに耐えて進んでいくことができる。
・何もこれが世界の終わりではない。
・薬を飲まなくてはならないからといって、何もかも諦めなくてはならないというわけではない。
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・治療に忠実に従う。
・薬を止めてしまう前に、医師と治療の選択肢について話し合う機会をもつようにする。
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私の考え
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私の行動
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■適応とは常に進行中の過程 |
・障害をもつことに対して本当に納得した気持ちになり、薬を服用しなくてはならないことが気にならない、というまで到達するわけでは決してない
・しかし、双極性障害を抱えていながらも自分の生活を送れるまでになることは可能
・それは、自分が想像していた人生のあり方とは決して一致しないかもしれない
(ほとんどの人にいえること)
・人生にどのような紆余曲折があるかは、決してわからない
・慢性的な疾患を抱えて生きる人には大変なのは明かであるが、双極性障害やその治療を受け容れ、適応し、上手く付き合っていくようになるということは不可能ではない
・双極性障害を抱えていることに対し自分自身と和解するというのは、常に進行中の過程である
・前進することもあれば、後退することもある
・嘆きの各段階はなかなか容易に進めないもの
・疾患が生活を妨げるたびに怒りが再び込み上げてくるだろう
ワークシート7.2は、双極性障害を抱えることへの適応について考えてみるのに役立つ質問から成る
所定のスペースに回答を書き出してみよう
次に、自分の考え方をかえるとうことについて述べる
読み終えたら、自分が書き記したことを再度振り返り、自分の考えを見直してみよう
ワークシート7.2 双極性障害を抱えているということについてのあなたの考え |
あなたは今、適応のどの段階(否認、怒り、取引、抑うつ、受容)にいるか。
どうしてそれがわかるのか
あなたにとって、双極性障害を抱えているということはどんなことを意味するか
人としてのあなたについて、それは何を意味するのか
それはあなたの将来については何を意味するのか
あなたの生活の中で、それはほかの人びとにどのような影響を与えるのか
将来をもっと見通しの明るいものにするために、何かあなたにできることがあるか
これらの考えについて、家族、友人、医師またはセラピスト、またはこの疾患を抱えているほかの人びとと話し合ってみよう。双極性障害を抱えていることに対する自分の適応について自分自身が話しているのを聞いていると、いくつか理解出来ることがあるかもしれない。ネガティブな思考に関する次の章を読んだ後で、このワークシートに記したあなたの考えを振り返ってみよう。そしてあなたが学ぶ演習の中で、この疾患を抱えていることをめぐるあなたの考えに当てはまるものがあるかどうか、確かめてみよう
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■双極性障害の診断が間違っているということはあり得ないのか |
否認を経験する時の最大の疑問の1つは、自分はこの診断を受けるべきだったかどうかに関してである
(なぜなら双極性障害の診断を下すのは難しいこと)
たとえ診断が正しかったとしても、患者とその家族にとって診断を受け入れるということは依然として挑戦である
■診断上の困難
双極性の診断を下すにあたって2つの大きな困難がある
(1)タイミング
(2)正確さ
◇診断のタイミング
・双極性障害の人にはさまざまな異なった様相をみせ、その人生にわたって異なる状態を経験している
・診断が正確かどうかは、症状がどれほど明確で、重篤であるかに左右される
・診断を受ける複雑さには、症状が始まった年齢にある
<大人の場合>:
・成人の場合は躁病とうつ病と正常な区別することはかなり容易
<子ども、青年>:
・こども時代や青年期に双極性障害が始まると、その状況はさほど明確ではない
・子どもは大人ほど自分の感情を口で説明することや、もっと具体的にすることができない
・悲しみや多幸感より、イライラや怒りを感じる可能性が高い
・気分が悪いとき、無作法にみえるような行動をとってしまう
・理屈っぽく、反抗的で、強情で、悪事を働き、衝動的になり、行動障害問題、多動症、
あるいは注意欠如障害の子どもと非常によく似たようになることがある
・タイミングのもう1つは、疾患の進行における心配がある
・たった1回のうつ病のエピソードがあったとして、それで双極性障害と診断したとしたら、それは正確ではないこともある
・単なるストレスと思ったり、学校を退学、仕事をクビになったりしなければ、治療を求めることがなかったり、その時点では反復性大うつ病と診断されたかもしれない
・うつ病の時にアルコールや、ストリートドラッグを使用していると一時的に気分が良くなり、その診断症状はいっそう紛らわしいものになる
・うつ病と、アルコールまたは物質の乱用が同時期に生じた場合、どちらかがどりらの原因となったのかを識別するのは非常に困難
・もし医師が自分について間違った結論を出してしまったのではないかと考えるのなら、何故その医師は自分を双極性障害だったと考えるのか、医師に説明してもらおう
・もし自分の診断結果に納得できないとしたら、セカンドオピニオンを入手するのもよい
・診断を拒絶するよりも、診断に関するより多くの情報を入手しよう
◇診断の正確さ
・精神医学はまだ、双極性障害といった特定の疾患の身体的な兆候を正確に検出することはできない
・患者の症状を検証し、そのパターンがDSM-Ⅳ-TR[ 「DSM-IV-TR」と「ICD-10」の分類・定義 ]基準を満たすかどうかを判断することによって行われる
・正確な判断がなされるかは、臨床家(医師)がどれほど徹底しているか、彼らの訓練と技能レベルにかかっていることはもちろんだが、臨床家(医師)がどれほどの量の情報を入手できるかによっても左右される
・診断に対する取り組みは非常に多くの変数が存在するため、過ちを起こす余地は多くある
・診断上の過ちは最も多くの場合、次の2つの理由で起こる
(1)患者が自分の経歴と症状の進行について診断に役立つほど十分な情報を提供できない
(2)うつ病とアルコールの使用、躁病とコカインの使用、あるいは気分症状と精神病的症状、というようないくつかの異なる心理的、または医学的な問題が同時期に生じることもあり得るため
・状況の複雑さに加えて、症状の現れ方には文化的、言語的、地理的違いも存在する
・双極性障害の診断を下すにあたって、正確さというのは非常に現実的な問題ではあるが、もし数人の異なる医師から双極性障害と診断され、『大うつ病エピソード』、『躁(そう)病エピソード』で説明されている症状を経験したことがあるとしたら、それらの診断が正確である可能性は大いにある
・多くの確証があるにもかかわらず、それでもまだその診断と闘っているとしたら、おそらく再度事実をよく検証し、自分の気分変動の責任を引き受けていく時期にきている
■診断を受け入れること
・診断を受け入れることができなければ、通常、評価過程と治療に十分に参加することに対し気が進まないもの
・医師の話を理解することと、それを受け入れ、信じられるものであるとするかは別なもの
・双極性障害の診断に同意するというのは、自分が双極性障害であることを受け入れるというだけではなく、障害にわたる治療を必要とする障害を持っているということを受け入れることでもある
・双極性障害と診断を与えられなくないとしたら、自分の症状を完全に医師に言わない、気分の変動と行動の変化を控えめに言う、素直に情報を医師に提供しなかった、などは診断過程の妨げとなってしまう
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■気分の揺れは誰にでもあるのか |
図7.1に示すように、気分の揺れは、軽いものから重篤なものまで非常に大きな幅がある
図7.1 気分の揺れの重要度 |
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<最も軽いレベルに位置する正常域>
・何か悪いことが起こったときには気分が落ち込み、何か良いことが起こったときに気分が高まる
・この状態は一時的なもので、何らかの出来事と特定の関係がある
・その出来事が終われば、気分は通常の状態、または中立的な状態に戻る
・生まれながら気分にムラのある人もいる
→うつ病または躁病の身体的な症状はみられない
→ただ気難しいか、気分屋だけで、心の病ではないが、お気楽なタイプではない
・逆境に直面しても、意気揚々で、楽観的であり、希望を失わない人もいる
→躁病ではない→気立てが穏やかであるだけ
<重症度の度合いを上げていくと、身体的な問題やストレスによって気分が悪化する人がいる>
・最もより例は、
-月経前症候群(PMS)-
:女性には明らかな気分の落ち込みがみられる
:生理が始まる前に1週間そこら続き、生理が終わった後も数日続くこともある
:ホルモン量の変化、膨満感、痛み、およびその他の身体的不快が原因で生じる
・しかし、その訪れが予測可能であると同様、その消滅も予測できる
<より重度な診断可能な気分障害>
※「DSM-IV-TR」に提示された基準を満たしていること
・気分変調症または気分変調性障害は慢性的だが、通常は軽度で、生涯にわたり続くこともあるうつ病
・ただし、大うつ病ほど重篤ではない
-気分変調症-
・少なくとも約半分は落ち込んだ気分で、大うつ病の身体症状がいくつかみられる
・あるいは自己評価が低くなるということもある
・その生涯で大うつ病の期間を経験することもある
・しかしこれらは、大うつ病が終われば、通常、気分変調症的な状態に戻る
-気分循環症-
・双極性障害の軽い形態で、生涯にわたって続く
・その人の生涯にわたり、軽そう病のようにみえる高揚とした状態と、比較的軽い落ち込みの状態とが交互にやってくる
・気分循環症の双極性障害の発症の始まりだったということもある
-軽うつ病-
・特定不能の(ほかには特定されない)うつ病と呼ばれる
・悲しい気分がみられ、大うつ病の場合にあげられる身体的な症状がいくつかあるものの、大うつ病と診断される5つの症状を満たすまで至っていない場合に、そう診断される
・大きなストレスとなる出来事が引き金となって生じることが多く、その出来事が終わるまで短期間続く
・通常、治療を受けないでも軽減していく
-双極Ⅱ型障害-
・大うつ病の期間と軽そう病の期間があるとして定義される
<大うつ病>
:いったん発症すると再発する傾向がある
:ときには苦痛な出来事と関係していることもある
:何の理由も無く起きることもある
:慢性的で、一時的に症状が和らぐということもなく何年も一気に続くこともある
<軽躁病>
:程度の差から躁病と区別している
:気分、思考における変化、および躁病のような身体的症状はみられるが、
困難に陥ってしまうほどひどく判断力が損なわれるということはない
-統合失調感情障害、双極型、および特定不能の双極性障害を伴う統合失調症-
:双極Ⅰ型生涯を超え、連続体上でさらに重度の位置にあるもの
:これらの疾患が両方ある場合、通常、健康な状態のときはまったくない
:躁病またはうつ病が軽減すると、通常、幻覚や妄想といった精神病的症状がその後しつこく続く
:統合失調感情障害、双極型の場合には、うつ病と躁病のエピソードが双極Ⅰ型障害の場合と
同じくらいに頻繁に生じるのに対し、統合失調症の場合は、双極Ⅰ型障害または統合失調感情障害の
場合ほど、躁病とうつ病のエピソードが頻繁に生じず、その期間もさほど長くは続かないという点にある
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次回は、第8章「思考の誤りと認識と把握」について述べる。
ボリュームがあるので何分割で要点を整理したい。
大括りでは以下のような分類になる。
■出来事、行動、思考について
■誤認:過大視、過少視
■結論への飛躍:読心術、運勢判断、破局視、個人化
■視野狭窄:(選択的知覚、心理的フィルタリング)
■絶対思考:白黒思考、レッテル貼り、すべき思考
(2011/12/12 20:43)
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