さてさて、僕にはP・K・Dの10冊目となった『戦争が終わり、世界の終わりが始まった』だったけれど、本書は1959年に書かれ、16年を経て出版された曰わく付きなのだ。元々、SF作家である彼が、ノンSF小説を手がけた作品だから、力作なのに、出版社も何故か、出版しなかったのだろうかねぇ。本書の原題は"Confessions
Of A Crip Artist"、「いんちき芸術家の告白」となっている。また、昔フランスで、『バルジョーで行こう!』(1992)というタイトルで映画化されているが、あまり面白い映画ではなかったらしい。機会があったら観てみたいね。
主な登場人物は4名、ジャック・イシドール、気が狂った兄と、フェイ・フュームという妹、これも手が付けられないほど身勝手な、でも魅力的な女。この2人は各章を一人称で、語って筋を展開・進行させていく。あとの主要な登場人物は、フェイ・フュームの夫であるチャーリー・ヒューム、もう一人が、夫が入院している間にフェイに言い寄られて関係を築いてしまうネーサン・アンティール、この2人は三人称叙述型式の部分もあって語られていく、お得意の多視点的小説でもある。
面白かったよ、いつものようにユーモアもあるし、”バカ”とか”気違い”とか、フェイ・ヒュームは放送禁止用語も機関銃が如く連発するし、それでもって、不倫・自殺・離婚・オカルト・超能力・精神異常・裁判etc・・・てんこ盛りで、意外にリズミカルで、ウィットでね。絶版らしいけど、中古本や図書館だと見つけられるのじゃないかな。じゃ。(2009/09/04
21:58)
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文庫: 325ページ
出版社: 晶文社
(1985/12/15初版)
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