佐久間清太郎という男、「破獄」を読んで。 2009
7/19
日曜日

 吉村昭著の『破獄』を読み終えた。まず、どのようなお話かと言うと、

 「内容(「BOOK」データベースより)昭和11年青森刑務所脱獄。昭和17年秋田刑務所脱獄。昭和19年網走刑務所脱獄。昭和23年札幌刑務所脱獄。犯罪史上未曽有の4度の脱獄を実行した無期刑囚佐久間清太郎。その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰る闘いを描破した力編。読売文学賞受賞作。」

文庫: 371ページ
出版社: 新潮社 (1986/12)
ISBN-10: 4101117217
ISBN-13: 978-4101117218
発売日: 1986/12
商品の寸法: 15.2 x 10.8 x 1.6 cm

 2006年の北海道ツーリング博物館 網走監獄も見ていただけに、感慨深いものがあった。吉村昭氏は作家一筋真面目で緻密な調査が読む側にも淡々と伝わってくる。

 生まれながらに”心が悪”なひとはいない。カルマを背負ってこの世に生まれ落ちるとしても、運命・宿命を呪うだけではダメなのでしょうね。

 四度の脱獄の用意周到な計画と意志の固さ、神技的な体力と行動力に、まずは感服させられる。極寒の網走監獄で過ごす冬場は尋常的ではないね。死なない方がおかしい。

 さて、昭和22年、四度の脱獄後、府中刑務所に投獄される佐久間が、鈴江所長の大胆不敵ともいえる御状的な扱いで、心をゆっくりと静かに開いていく。文中にこんな会話がある。

 ・・・・・・鈴江(府中刑務所所長)は炊場で休憩をとっていた佐久間(無期懲役囚人)に話しかけた。なにか辛いことはないか、という問いに、佐久間は、
 「出所した者が、また罪をおかしてもどってくるでしょう。その連中に、まだいるのか、と言われるのが辛くてね。いっそ、逃げようか、とも思いますよ」、とためらいがちに答えた。
 「なぜ、逃げんのだね。その気になれば、いつでも逃げられるだろう」佐久間は、少し首をかしげると、
 「もう疲れましたよ」と、かすかに笑いながら答えた。

 その後、鈴江所長らの尽力で、佐久間囚人は仮釈放となる。佐久間は54歳であった。佐久間が毎年、元旦に鈴江の自宅に手土産をもって新年の挨拶におとずれることを続けた。彼は鈴江の妻が出す正月料理を旨そうに食べ、夕方、丁寧に礼を述べて帰って行った。その佐久間は心不全により71年の生涯を閉じる。

 何故か、ほのぼのと心温まる実話ではないですか。罪を犯すのも、裁くのも人間。しかし罪を犯した人を改心させ、人の尊厳を与えるのもこれまた人間。思いやりや温情すること、人を人として扱うこと、人に認められる、役立つと思えることが、生きていく上で、なんと大事なことか、と再認識をさせられた本でしたね。後味が非常によろしい。(2009/07/19 10:57)

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