宇宙飛行士が船外活動で「運が悪い場合」
<後半>
2008
12/23
火曜日

  今日の夕方、『絶対生還。』を読み終えた。ノンフィクションとしてはおもしろかったですね。さあ、「運が悪い場合」の後半、いってみましょか。

  これらの損傷においてもっとも重大なのは肺の圧力傷害である。肺は宇宙の真空にさらされると、ポンッと音を立てて空っぽになる。空気の一部は鼻と口から出て行くが、その勢いはすさまじく、鼻はもげ、歯は吹き飛ぶ。空気の多くは肺の壁を突き破って勢いよく吹き出し、破れた肺壁をティッシュペーパーのようにひらひらさせながら、胸腔に充満する。残りの空気は大きな気泡となって血流に流れ込み、全身への酸素の供給を止めてしまう。気泡は関節に入り、全身を麻痺させる。

 今まで最新の注意を払って回避してきた潜水病の症状だ。気泡で血管が詰まり、動脈の血流が止まると、心臓は停止する。そうなれば、もう気にすることはないが、全身のすべての細胞に含まれる水分が一滴残らず水蒸気となり、体が通常の三倍まで膨張し、眼窩から眼球が押し出され、皮膚は張り裂け、外耳道は海になる。


 

 水分は、日なたでほぼ一瞬にして沸騰し、日陰ではほぼ一瞬にして凍結する。胃にたまっていたガスが爆発し、胃もろとも横隔壁を突き飛ばし、残った肺を破壊する。大腸と小腸も、手榴弾を呑み込んだよりもひどい状態になる。体にあいた新しい穴に宇宙放射線が降り注ぎ、内側から外側まで徹底的に焼かれる。

 もちろん、まだ内側と外側の区別ができていて、外側が吹き飛んでいない場合の話だ。もっとも、もう気にすることはない。

 問題は恐怖に満ちた最初の九秒間だけだ。

 いーち、にー、さーん・・・・・・・


 どう?読みたくなったでしょ。どうかな?

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