日本陸海軍機大百科、『二式複座戦闘機 屠龍』[キ45改] 2010
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土曜日

 シリーズ第一八弾は、『二式複座戦闘機 屠龍(とりゅう)』キ45改で、日本陸軍最初の双発複座戦闘機となった川崎の意欲作だ。

 1930年代に入り、欧米航空先進国の間で盛んになった双発多座戦闘機の開発競争に乗り遅れまいと、日本陸軍が川崎航空機工業に命じて初めて試作したのがキ45だった。しかし本機は設計に失敗して不採用となり、改めて全くの新規設計機として誕生した。性能的に秀でた面がなかったこともあるが、太平洋戦争は日本陸軍が想像した双発複座戦の運用法を否定する形で推移したため、華々しい活躍は出来なかった。それでも相応の使い道はあり、陸軍戦闘機兵力の一躍を担ったことは確かである。

■双発多座戦闘機への傾倒
 明治時代末期の軍航空草創から昭和10(1935)年代の初め頃まで、陸軍の戦闘機といえば発動機が1基で1人乗りの単発単座形態しか存在しなかった。しかし1930年代に入ってからの欧米航空先進国の間では、エンジン2基で乗員2~3名という双発多座戦闘機の開発が一種の流行のようになって軍航空界を賑わせた。単発単座戦闘機に比べてエンジン出力が単純計算で2倍であり、航続距離が長く速度も速い。さらに射撃兵装や爆弾の携行についてもより充実した装備が可能となる。従って単発単座戦では難しかった爆撃機を援護しての長距離侵攻が可能となり、副次的に偵察や紹介、さらには対地攻撃任務などにも使える他用途性が期待できるというのが各国上層部の共通した理念だった。

■日本陸軍航空もこうした欧米先進国の情勢に敏感に反応し、昭和12(1937)年3月に中島、川崎、三菱の3社に対してキ37、キ38、キ39の試作番号を与えて開発指示が出されたが、理由は不明だが年末にはキャンセルされてしまう。改めて、川崎1社に対して、キ45の試作番号により開発指示が出た。軍側の要求事項は、中島製「ハ二〇乙」空冷星形9気筒発動機(820hp)を搭載し、常用高度2~5,000メートルで最大速度540km/h、全力30分+巡航速度330km/hにて航続力4時間40分、固定機関砲(20mm)1門、固定機銃(7.7mm)2挺、旋回機銃(7.7mm)1挺となっていた。

■不採用に終わったキ45
 採用速度は要求値にほど遠い480km/hであったこと、発動機の故障は不調が頻発し実用性が疑問視されたこと、深刻なナセル・ストーム(ナセルの形状や取付位置の設定が悪いために気流が剥離し失速を起こす現象)も表面化するという最悪の結果だった。川崎は発動機を中島製の「ハ二五」(空冷星形複列14気筒)に換装、機体設計も手直しとして「第一次性能向上型」と称する増加試作機を8機も製作して、必至の改修を試みるも、昭和15(1940)年10月にキ45は不採用の通告をされてしまうのである。

パソコンのモニターの前で撮影

川崎『二式複座戦闘機 屠龍』[キ45改]

■起死回生のキ45改
 陸軍航空本部は、キ45の不採用通告と同時に川崎に対して「キ45第二次性能向上機」という名目で更なる改良型の試作を発注した。軍側からは発動機を三菱製「ハ一〇二」(海軍名称「瑞星」)に換装すること、と言う以外に要求スペックに特別な変更はなかった。川崎側はキ45の機体設計に見切りをつけ、設計主務者を土井武夫氏に変更し、全く新しい新規設計で望むことに決めていた。”二度目の失敗は許される”という決意の表れでもあった。

■土井技師の奥の手により開花
 土井技師は、既に成功していた九九式双発爆撃機[キ48]の設計基本理念を流用したのだった。また、キ45で散々悩まされたナセル・ストームに対しては、ナセル自体の取付位置をできるだけ主翼断面中心より下方にし、上方への突出土を少なくした。気流の乱れを助長するカウルフラップも主翼前翼より下方のみにに設けるなど細心の注意を払った。こうして開戦から2ヶ月後の昭和17(1942)年2月、キ45改を「二式複座戦闘機」の名称で制式採用し、同時に川崎に対して量産を下命した。

■単発単座戦に劣る格闘格闘戦性能
 単発単座戦闘戦に対して勝ると考えられていた速度や航続力、火力(射撃兵装)は、実際に単発単座戦闘機の空中戦に入ってしまえば、物理学的な機動(運動)性能においてまったく歯が立たず、制空戦闘機としての役目を果たせないということが露呈してしまった。

■武装強化で活路を開く
 本機の運用には紆余曲折があったが、37mm砲(本来、航空機用に開発されてはおらず、全長1.55m、重量150kg、初速600m/秒と遅く携行弾数が少ない、しかし破壊力は300mの距離から厚さ45mmの装甲板を貫通出来た)や、爆弾懸架具の追加により、対大型機迎撃やあるいは対地、対艦船攻撃への転身を図っていくのだった。

 次回は一式戦闘機『隼(はやぶさ)二型』をお楽しみに。(2010/06/05 13:25)

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