『零戦21型(偵察用2座席)』 国立科学博物館<上野>
2007年 7月 8日

 上野にある国立科学博物館にかつての零戦が再現・展示されている。上野本館・地球館の2階である。「この零戦は、1972(昭和47)年ラバウル北西ニューブリテン島沖の海底で発見され引き上げられた。ベースは零戦21型で、数機の部品を合わせて作られており、偵察用として2座席に改造されている。」とある。練習機として零戦の複座も存在するが偵察用としては珍しい。


国立科学博物館 正面(上写真)と、零戦の紹介(右写真)
零戦二一型(A6M2b) 製造番号 不明

 昭和19年2月下旬、2年近くにわたってソロモン航空戦の中心基地となったラバウルから、残存の零戦51機が後方のトラック島に後退し、栄光の”ラバウル航空隊”は消滅した。しかし、現地には253航空隊の一部搭乗員、地上員などが残置隊として残され、彼らは飛行場周辺に放置されていた多数の破損機の部品を寄せ集めて何機かの零戦を組み立て、昭和20年4月頃まで散発的な攻撃、グリーン島、アドミラルティ諸島などに対する銃・爆撃、偵察任務を実施した。

 これらの”現地手製”零戦の中に、偵察任務に適するよう、複座に改造した二一型があり、"53-122"の機番号を付けて使用された。本来が寄せ集めの部品の”合体”なので、製造番号は”無し”とするのが正しいが、胴体部分のそれは中島第31870とされている。

 昭和20年1月9日、アドミラルティ諸島偵察に向かった本機は、その途上で米軍戦闘機に補足され、ラバウル西方約50Kmのランバーと岬沖250m、水深8m海上に不時着した。この際、搭乗員は戦死している。

 それから27年半が経過した1972年8月、オーストラリアの著名な航空機研究かG・ペントランド氏らにより、新しく建設する予定の同国の航空博物館の展示候補機として引き揚げられ、メルボルンのエッセンドン空港内のハンガーに運ばれて復元された。

 不時着時の状況が良好だったために機体の損傷は少なく、表面に付着した貝類を取り除いただけで、ほぼ原型通りに戻った。コクピット内部も一部の部品を除き、粗方揃っていた。機体に残った30発の弾痕修理後がベテラン機を実感させた。

 その後、上記博物館建設計画が資金難などの理由で潰れたため、本機は売りに出され、それを元日本理工学部教授石松新太郎氏が買い取り、のちに国立科学博物館に寄与して現在に至っている。複座のコクピットまわりを除けば、原型の二一型そのものであり、復元の際によくみられる”勝手な改修”もほとんどないことから、実際資料としては申し分ない。

(出典:『エアロ・ディーテイル7 三菱零式艦上戦闘機』出版:株式会社大日本絵画(1993.5) )


落下式増槽(前からと後から)
着艦フックがご覧いただけるだろうか。
モニターで零戦の特徴とコクピット(操縦席)が紹介されている。
操縦席、シンプルだけども零戦らしい。
上一段目左から、水平儀、旋回計
二段目左から、混合比計、航空時計(これは個人持ちが多かった)、速度計、磁気羅針(しんぎ)計、油圧計、燃料圧力計、回転計
三段目左から、航路計、主切断器、光度計、筒温(とうおん)、湯温計、吸入圧力計
下段左から、オイル冷却器
手前は、操縦桿
左右上下にパンできるようになっている。
少し左にパン。
同じく、右にパン。
もう、これだけで充分に遊べますね。
【プロペラ】ハミルトン式/恒速3翅(し)プロペラが採用されている。このプロペラはエンジン出力に合わせてプロペラ角度が自動的に変わる仕組みになっており、エンジンの力を最大限に引き出すことが出来た。直系2.9メートル。
【エンジン】
中島「栄」12型エンジンが搭載されている。空冷星型複列14気筒エンジンで、前列と後列に各7本のシリンダーを持ち、総排気量は2万7000cc。出力は940馬力。中島飛行機(株)で作られた。
【集合排気管】
7気筒分の排気を一つにまとまた集中排気管。左右に振り分けて設置されている。後期型では、出力増強を図るために、各気筒ごとに排気する単排気管に改良された。
【主翼前桁】
主翼内部を翼幅方向に貫く主要部材。主翼の骨格となる部分で、胴体前部と一体で製作された。材料には、軽くて郷土の高い超々ジュラルミンが世界で初めて採用された。
【無線アンテナ】
無線通信に使われたアンテナ。このほか、航空母艦や基地が発信する電波を受けならら戻ることのできる無線帰投装置が、初期型には搭載された。
【燃料タンク】
燃料を積載するためのタンク。胴体と主翼内2箇所のタンクに合計525リットルの燃料を搭載できた。さらに、落下式増槽に蓄えた燃料によって、ゼロ戦は驚異的な航続距離を実現した。
【ピトー管】
速度を測定する装置。進行方向の風圧と大気圧の差を測定する構造で、飛行中の速度を割り出した。
【着艦フック】
航空母艦の看板に着艦するための装置。操縦席のレバーを引くと、着艦フックが下がり、航空母艦の制動ワイヤーに引っ掛けて減速した。零戦は、本来艦上機であったため、この装置が設けられている。
【落下式増槽】
切り離し出来る増設の燃料タンク。航続距離を伸ばすために世界に先んじて採用された。洗練された流線型で燃料が330リットル積載できた。期待内のLAN両端句と合わせて855リットルを積載。
【方向舵】
左右に向きを変えるための稼動翼。操縦席のフットバーで操作し、稼動幅は左右33度。旋回は、方向舵と補助翼(エルロン)の操作を連動させて行った。
【カウルフラップ】
エンジンの冷却空気の量を調整する装置。離陸や上昇時などのコウソク回転時には全開し、巡航時には閉じて空気抵抗を減らした。
【引き込み脚】
内側に引き込む油圧式の主脚。離着陸時にだけ主脚を出し、飛行中は引き込んで空気抵抗を減らした。艦上機の中で始めて零戦に採用された。
【フラップ】
主翼に働く揚力を可変する装置。離陸時に、より大きな揚力を発生させ、滑走距離を短くする役割を持つ。スプリットフラップと呼ばれ、下側に70度展開する。
【風防】
後期抵抗の少ない水滴型。良好な視界が得られた。21型には安全ガラスを3枚組み合わせたものが使われたが、後期型になると防弾ガラスが装備された。
【折りたたみ式翼端】
航空母艦のエレベータに乗せるために、主翼の両端が折りたためるようになっている。両端合わせて1メートル短く出来た。操作は主導で行った。
【枕頭鋲(ちんとうびょう)】
接合に使われた頭の平らな皿リベット。それまでの丸リベットでは、空気抵抗が大きいため、接合部の多い零戦では皿リベットが用いられた。気体表面が滑らかになり、空力性能が格段に向上した。
Copyright (C) 2007 Shougo Iwasa. All Rights Reserved.