『赤と黒(上下巻)』スタンダール(著) 2018
5/19
土曜日

【上巻】19世紀の書物は貴族社会、或いは宗教を抜きにして語ることができない。大体のところ。主役のジュリヤンも神学校長のピラールも「卑しい身分」という生まれながらレッテルを貼られている。「野心」を持つというのもこの時代の小説には必須条件ではないか。卑しい身分の野心家が行動するとエネルギーが爆発する。恋もする。敵も多い。なので小説として面白い。変な循環になってしまった。しかし、ジュリヤン君、そんなにメソメソ泣きなさんな、とか思ってしまうけれど、レナール夫人の初めて恋に落ちるという盲目さも健気といえばケナゲでしょうか。

【下巻】本書はフランスの19世紀の生活風俗が革命前のおもしろおかしかった時代から如実に変化したことを解った上で読むのでしょうね。一般にサロン向き、時間をもてあます細君に照準をあてた小説(VS小間使い向き)。利己的で自尊心強く妬み深い野心家のジュリアン。育ちよく勝ち気で虚栄心だけのお嬢様マルチダ。二人の恋。マルチダの虚栄心、鼻っ柱を崩すことで恋心を生む、これはよくわかる。それは女性読者にも迎合される。何をいいたいかというと現在の恋愛小説感覚で読むとばからしくて失望する。けれどもバックボーンを考えると奥深いのである。

 (ガーディアン必読1000冊:ロマンス 65作品読了/1,000)

赤と黒 (上) (新潮文庫)
スタンダール 小林 正
4102008039
登録情報
文庫: 354ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1957/2/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4102008039
ISBN-13: 978-4102008034
発売日: 1957/2/27
赤と黒 (下巻) (新潮文庫)
スタンダール 小林 正
4102008047
登録情報
文庫: 521ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1958/5/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 4102008047
ISBN-13: 978-4102008041
発売日: 1958/5/22

内容紹介
【上巻】製材小屋のせがれとして生れ、父や兄から絶えず虐待され、暗い日々を送るジュリヤン・ソレル。彼は華奢な体つきとデリケートな美貌の持主だが、不屈の強靱な意志を内に秘め、町を支配するブルジョアに対する激しい憎悪の念に燃えていた。僧侶になって出世しようという野心を抱いていたジュリヤンは、たまたま町長レーナル家の家庭教師になり、純真な夫人を誘惑してしまう……。
【下巻】召使の密告で職を追われたジュリヤンは、ラ・モール侯爵の秘書となり令嬢マチルドと強引に結婚し社交界に出入りする。長年の願望であった権力の獲得と高職に一歩近づいたと思われたとたん、レーナル夫人の手紙が舞いこむ……。実在の事件をモデルに、著者自身の思い出、憧憬など数多くの体験と思想を盛りこみ、恋愛心理の鋭い分析を基調とした19世紀フランス文学を代表する名作。




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