【上巻】19世紀の書物は貴族社会、或いは宗教を抜きにして語ることができない。大体のところ。主役のジュリヤンも神学校長のピラールも「卑しい身分」という生まれながらレッテルを貼られている。「野心」を持つというのもこの時代の小説には必須条件ではないか。卑しい身分の野心家が行動するとエネルギーが爆発する。恋もする。敵も多い。なので小説として面白い。変な循環になってしまった。しかし、ジュリヤン君、そんなにメソメソ泣きなさんな、とか思ってしまうけれど、レナール夫人の初めて恋に落ちるという盲目さも健気といえばケナゲでしょうか。
【下巻】本書はフランスの19世紀の生活風俗が革命前のおもしろおかしかった時代から如実に変化したことを解った上で読むのでしょうね。一般にサロン向き、時間をもてあます細君に照準をあてた小説(VS小間使い向き)。利己的で自尊心強く妬み深い野心家のジュリアン。育ちよく勝ち気で虚栄心だけのお嬢様マルチダ。二人の恋。マルチダの虚栄心、鼻っ柱を崩すことで恋心を生む、これはよくわかる。それは女性読者にも迎合される。何をいいたいかというと現在の恋愛小説感覚で読むとばからしくて失望する。けれどもバックボーンを考えると奥深いのである。
(ガーディアン必読1000冊:ロマンス 65作品読了/1,000)
|