原書は、Mrs. Dalloway(1925年)。
心に浮かぶ考えや想いは誰にも邪魔されない領域だろう。思っても口に出さない思慮深さは大概の人は持ち得るが、頭の中の空間は自由闊達であって、肯定も否定もされないししようがない、つまり安全地帯だ。(だから何を夢想・空想・想像してもよいとして)意識下の意識ではなく意識上の意識がふわっと湧き出るニュアンスが全編を蹂躙している。日常会話で相手の一言が感情が逆転してしまうことはしばしばあるものだし、揺れ動き、何かの弾み・言葉で元の正常値にリセットされることもこれまた多い。本書、文章は数センテンスでも人の入れ替わりが頻繁で、時間軸も現在⇔過去へ話がスイッチするケースも多々あり。準主役級のピーターが144頁で心の内を暴露していることが僕の考えに非常に近しい。
彼女は定期的周期で躁鬱が入れ替わっていたことから、双極性障害だったと仮定するなら、軽躁時のすべてが新鮮に目に映り、アイデアが湯水のように湧いては話題がころころ切り替わることが本文でも充分窺えるし、自殺未遂、終局は命を絶ってしまうのだが、生きることに悶え苦しんだだろことが、僕には異常ではなく、普通に共感できることでもある。
(ガーディアン必読1000冊:家族・私小説 63作品読了/1,000)
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