『かわいい自分には旅をさせよ』浅田次郎(著) 2016
12/26
木曜日

本書はJAL機内誌のエッセイに比較して、やや真率・格調高らかなエッセイだと感じた。週刊誌、刊行誌、新聞等に掲載されたものからピックアップされている。まず「蒼穹の昴」「中原の虹」「壬生義士伝」などの背景となった歴史、中国に取材旅行の話題、既読であるだけにより景趣を掻き立ててくれた。そして、一篇、読み切りの短篇「かっぱき権左」がエッセイ集とは異質であるが、中間に折混ざったことが流れに抑揚を添えている。

ここで、親として、父親として、心に響くエッセイがある。私も人の親として深々と頭を垂れた次第である。

幾歴辛酸志始堅
丈夫玉碎恥甎全
我家遺法人知否
不爲兒孫買美田


幾たびか辛酸を歴て志(こころざし)始めて堅し、
丈夫(ぢやうふ)玉碎すとも甎全(せんぜん)を恥づ。
我が家の遺法人知るや否や、
兒孫(じそん)の爲に美田を買はず。
-西郷南洲「偶成」(詩)-

第四句の意味は「子供や孫の幸福を希って、財産を残しては成らぬ」と。艱難辛苦の末、築き上げた一代社長の会社も、ぼんぼん息子が会社を潰すこともある。乱世の世、信長、秀吉、信玄、家康の名将も嫡男は凡庸であった。なまじっか財産があり裕福な生活を送った者が、所詮無理だろう。財をなした一代社長や名将は、敵に晒され、全神経を傾注して経営し統治し、夢を注いで成長させてきた実力者であった。しかし、子が同様のモチベーションを保持し続けることは困難だろうことは容易に頷ける。「ハングリー」ではない、「満腹育ち」だからであろう。よってそれらの警鐘を鳴らすべく、財産を子孫に残すことの是非を問うているわけである。当然「非」をよしとしているのである。本編「イッツ・マイ・ビジネス掲載」

さて、父親の役割とは何か? 今日、子供と友達、兄弟の如く関係を築いている仲良し父子の様相が散見されるのではないだろうか。これが悪というのではない。子が父親を尊敬する念、口に出さずとも父が子を想う心、戦後生まれの浅田次郎氏が実父との、実娘への体験を通じて述べられている。本編「父の不在」「親の不在」は是非、一読されんことを熱望する。ここでは微細に語るまい。

かわいい自分には旅をさせよ
浅田 次郎
4163759506
登録情報
単行本: 265ページ
出版社: 文藝春秋 (2013/01)
言語: 日本語
ISBN-10: 4163759506
ISBN-13: 978-4163759500
発売日: 2013/01
内容(「BOOK」データベースより)
京都へ、北京へ、パリへ、シチリアへ。世界は哀しいほどに深く、美しい。浅田流・旅の極意から、人生指南まで、心にグッとくる傑作随筆集。






Copyright (C) 2016 Shougo Iwasa. All Rights Reserved.