『翔ぶが如く(第一巻~第十巻)』司馬遼太郎(著) 2016
10/14
金曜日

長編であったこと、何百人と登場人物があったことなど、小説性より、解説本的な風味があり、序盤・中盤、忍耐力を強いる本である。薩摩が果たした役割、そして、大政奉還、維新後、版籍奉還、廃刀令、市民平等によって、士族の権益剥奪の反動がひずみ、捻れとなって爆発した。西南戦争の血生臭さが香る。本書は読んでおいたほうがいいけれども、誰にでもお勧めできるというものではないだろう。

●第一巻
司馬遼太郎氏の読了33冊目となった「飛ぶが如く(10分冊)」。時代は明治維新の頃。「竜馬がゆく」を読んでいると幕末からのウゴキが伏線として理解しやすいでしょう。教科書を読むようだというコメントもあるが、否、読み応えのある力作でしょう。次巻が楽しみ。

●第二巻
「征韓論」を巡って。死に場所を求める西郷。大久保利通、木戸孝允、伊藤博文、大隈重信、三条実美、島津久光、桐野利秋、他にも登場人物はあるが、さてこれからどうなるのか、「征韓論」という感じ。

●第三巻
まだまだ明治6から7年をウロウロ。西郷は「征韓論」に破れ、鹿児島に下野した。隆盛を将と仰ぐ薩摩族の多数が共擦れ・下野した。新国家としての基盤は精神面・体制面・国家論面で雛同然。国家の骨格すらおぼろげで危うい。国家兵力・資金力から見れば「征韓論」は無謀だが、西郷論として日清韓国との同盟、ロシアへの牽制効果としての序盤が征韓論であったとしたのなら、今の世の中も変わっていたかもしれない。この時代にワープしてみたい。

●第四巻
征韓論が萎えた後、また、征台論が興る。しかし、この出来事ひとつを取り上げても外交手腕は赤子であり、そもそも日本の国益を考え、もしくは利害が対立したものでもなく、「何故に」と国際常識・慣例で説明できることはひとつもない、見いだせない。維新後の日本は野蛮人と思われても仕方ない。何故、台湾に繰り出していったかのか、知りたければ本書を読むべし。

●第五巻
明治7年~8年をウロウロ。台湾征伐を無謀にも敢行し、清国との交渉・紆余曲折、その後、ルソーの「民約論」等々、各種思想が台頭してくる。文中にある。「明治八年における日本国家は、まだなお近代国家の体を成さない」まさにそのようだ。

●第六感
ずっとそうだがエピソードの場所場所で人物の紹介と出来事が語られる。もう、何十人が登場しただろうか。本話では、長州、前原一誠、肥後は神風連の乱。乱暴な世の中であったのである。士族も帯刀禁止令により武士の誇りも尊厳も踏みにじられてはといったところか。特に地方の士族には堪えたのだろうか。帯刀しないのなら、袋に入れたり手に持ったり、それならよいと解釈したり。

●第七巻
文中、大山綱良(県令)が内心「私学校がこの刺客問題に固執し、それを挙兵という正義行動の軸とし、起爆剤にしているだけに、この点についての疑問を県令として口外することは、禁忌であった。集団的熱気の中で成立したこの禁忌は、熱気に加わることだけが正義であり、それについて冷静であることは、不義として・・」とあるが、まさに精神面では熱気に引き摺られてしまっていた。西郷も象徴として奉られ、本来の魅力なく、偶像として「体だけ貸す」に成り果ててしまったという感想をもった。

●第八巻
「政略はいわば気体のようなものであり、それを固体化するのが戦略であったが、桐野・篠原らの感覚では、西郷その人の存在こそそのままの戦略であるとしたむきがつよかった」(本文抜粋) 西南戦争突入フェーズであるが、薩摩軍の表現しようもない幼稚で奢った体質であったか、この時代のなんと浅はかなことか、嘆かわしい。

●第九巻
西南の役、真っ只中。(文中より)『軍隊間の戦争というより、薩軍の場合は宗教一揆に酷似していた。総師である西郷隆盛への宗教的尊崇心以外に政略も戦略もなく、あとは個々の殉教心をたよりにしているという・・』 薩人の中にも戦略を立案できるものもいたし、局所的にそうした戦略を戦術に活かしたこともあった。しかし、熟慮の立案に幹部は「命が惜しいのか」で断裁されてしまうおぞましさ。政府軍も西郷隆盛を逃がしたい行動が散見されたり。なんだろうか、これは。

●第十巻
明治維新とは何だったのか、西南戦争が起爆した要因と結果、それとダメージ、それから何故にそのようになったのか、最終巻まで読み終えて僕が感じたことは、「虚しい」「国家の出で立ちの貧弱さ」、日本はこんな状態から文明国家を歩み出したことが何気に理解したような気分になった。
 

翔ぶが如く〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105942
登録情報
文庫: 346ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/02)
言語: 英語
ISBN-10: 4167105942
ISBN-13: 978-4167105945
発売日: 2002/02
翔ぶが如く〈2〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105950
登録情報
文庫: 378ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/02)
言語: 英語
ISBN-10: 4167105950
ISBN-13: 978-4167105952
発売日: 2002/02
翔ぶが如く〈3〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105969
登録情報
文庫: 361ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/03)
言語: 英語
ISBN-10: 4167105969
ISBN-13: 978-4167105969
発売日: 2002/03
翔ぶが如く〈4〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105977
登録情報
文庫: 331ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/03)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167105977
ISBN-13: 978-4167105976
発売日: 2002/03
翔ぶが如く〈5〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105985
登録情報
文庫: 369ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/04)
言語: 英語
ISBN-10: 4167105985
ISBN-13: 978-4167105983
発売日: 2002/04
翔ぶが如く〈6〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167105993
登録情報
文庫: 361ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/04)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167105993
ISBN-13: 978-4167105990
発売日: 2002/04
翔ぶが如く〈7〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167663015
登録情報
文庫: 426ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (1998/10/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 416710573X
ISBN-13: 978-4167105730
発売日: 1998/10/9
翔ぶが如く〈8〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167663023
登録情報
文庫: 336ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/05)
言語: 英語
ISBN-10: 4167663015
ISBN-13: 978-4167663018
発売日: 2002/05
翔ぶが如く〈9〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
4167663031
 登録情報
文庫: 322ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/06)
言語: 英語
ISBN-10: 4167663031
ISBN-13: 978-4167663032
発売日: 2002/06
翔ぶが如く〈10〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
416766304X
 登録情報
文庫: 383ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2002/06)
言語: 英語
ISBN-10: 416766304X
ISBN-13: 978-4167663049
発売日: 2002/06

内容(「BOOK」データベースより)
◆第一巻
明治維新とともに出発した新しい政府は、内外に深刻な問題を抱え絶えず分裂の危機を孕んでいた。明治六年、長い間くすぶり続けていた不満が爆発した。西郷隆盛が主唱した「征韓論」は、国の存亡を賭けた抗争にまで沸騰してゆく。征韓論から、西南戦争の結末まで新生日本を根底からゆさぶった、激動の時代を描く長篇小説全十冊。

◆第二巻西郷隆盛と大久保利通―ともに薩摩に生をうけ、維新の立役者となり、そして今や新政府の領袖である二人は、年来の友誼を捨て、征韓論をめぐり、鋭く対立した。西郷=征韓論派、大久保=反征韓論派の激突は、政府を崩壊させ、日本中を大混乱におとしいれた。事態の収拾を誤ることがあれば、この国は一気に滅ぶであろう…。

◆第三巻
―西郷と大久保の議論は、感情に馳せてややもすれば道理の外に出で、一座、呆然として喙を容るるに由なき光景であった―。明治六年十月の廟議は、征韓論をめぐって激しく火花を散らした。そして…西郷は敗れた。故国へ帰る彼を慕い、薩摩系の士官達は陸続として東京を去ってゆく―内戦への不安は、現実となった。

◆第四巻
西郷に続いて官を辞した、もとの司法卿・江藤新平が、明治七年、突如佐賀で叛旗をひるがえした。この乱に素早く対処した大久保は首謀者の江藤を梟首に処すという実に苛酷な措置で決着をつける。これは、政府に背をむけて、隠然たる勢力を養い、独立国の様相を呈し始めている薩摩への、警告、あるいは挑戦であったであろうか。

◆第五巻
征台の気運が高まる明治七年、大久保利通は政府内の反対を押し切り清国へ渡る。実権を握る李鴻章を故意に無視して北京へ入った大久保は、五十日に及ぶ滞在の末、ついに平和的解決の糸口をつかむ。一方西郷従道率いる三千人の征台部隊は清との戦闘開始を待ち望んでいた。大久保の処置は兵士達の失望と不満を生む。

◆第六巻
台湾撤兵以後、全国的に慢性化している士族の反乱気分を、政府は抑えかねていた。鹿児島の私学校の潰滅を狙う政府は、その戦略として前原一誠を頭目とする長州人集団を潰そうとする。川路利良が放つ密偵は萩において前原を牽制した。しかし、士族の蜂起は熊本の方が早かった。明治九年、神風連ノ乱である。

◆第七巻
熊本、萩における士族の蜂起をただちに鎮圧した政府は、鹿児島への警戒を怠らなかった。殊に大警視川路利良の鹿児島私学校に対する牽制はすさまじい。川路に命を受けた密偵が西郷の暗殺を図っている―風聞が私学校に伝わった。明治十年二月六日、私学校本局では対政府挙兵の決議がなされた。大久保利通の衝撃は大きかった…。

◆第八巻
明治十年二月十七日、薩軍は鹿児島を出発、熊本城めざして進軍する。西郷隆盛にとって妻子との永別の日であった。迎える熊本鎮台司令長官谷干城は篭城を決意、援軍到着を待った。戦闘は開始された。「熊本城など青竹一本でたたき割る」勢いの薩軍に、綿密な作戦など存在しなかった。圧倒的な士気で城を攻めたてた。

◆第九巻
熊本をめざして進軍する政府軍を薩軍は田原坂で迎えた。ここで十数日間の激しい攻防戦が続くのである。薩軍は強かった。すさまじい士気に圧倒される政府軍は惨敗を続けた。しかし陸続と大軍を繰り出す政府軍に対し、篠原国幹以下多数の兵を失った薩軍は、銃弾の不足にも悩まされる。薩軍はついに田原坂から後退した…。

◆第十巻
薩軍は各地を転戦の末、鹿児島へ帰った。城山に篭る薩兵は三百余人。包囲する七万の政府軍は九月二十四日早朝、総攻撃を開始する。西郷隆盛に続き、桐野利秋、村田新八、別府晋介ら薩軍幹部はそれぞれの生を閉じた。反乱士族を鎮圧した大久保利通もまた翌年、凶刃に斃れ、激動の時代は終熄したのだった。





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