『帰郷』浅田次郎(著) 2016
7/14
木曜日

珍しく新刊を2作続けて読んだ。浅田次郎、戦中ものを書かせると上手いですね。感情の起伏と行動の起因となった要素をきちんと因数分解し、説得力、納得力を持った筆圧で読み手に自然解凍させる力量を備えている作家であろう。短篇ゆえの濃縮度と精査された言葉が言霊としてずっしり響いてくる。「おまえを日本に連れて帰ってやる」と自分を納得させて胃袋に納めて生き延びた南方激戦玉砕地では起こりえた事実であるし、コトキレル戦友の蛆を取ってやりながら口にウジ虫を頬張ったのも真なのである。しかし、これを責めることは出来きるのだろうか。内地に帰った生き残り組は、これらを決して語ることはなく悪夢に苛まれながら生涯を過ごした。私だって生命を生きながらえさせるために、同一条件におかれたら十中八九同じ事をしたであろう。残虐な出来事が本書に書かれているわけではない。人として感情を揺さぶるパワーは戦中の非日常・非現実社会、いいかえると異常事態の社会では往々にしてあったことで、人間の尊厳、僕自身の琴線を弾くインパクトを与えてくれた本書であった。人により感じ方は違うのでしょうけれど、それはそれ。

帰郷 (集英社文芸単行本)
浅田次郎
B01H6GV91Y
登録情報
単行本: 256ページ
出版社: 集英社 (2016/6/24)
言語: 日本語
ISBN-10: 4087716643
ISBN-13: 978-4087716641
発売日: 2016/6/24

内容紹介
もう二度と帰れない、遠きふるさと。

学生、商人、エンジニア、それぞれの人生を抱えた男たちの運命は「戦争」によって引き裂かれた――。戦争小説をライフワークとして書く著者が、「いまこそ読んでほしい」との覚悟を持って書いた反戦小説集。
戦後の闇市で、家を失くした帰還兵と娼婦が出会う「帰郷」、
ニューギニアで高射砲の修理にあたる職工を主人公にした「鉄の沈黙」、
開業直後の後楽園ゆうえんちを舞台に、戦争の後ろ姿を描く「夜の遊園地」、
南方戦線の生き残り兵の戦後の生き方を見つめる「金鵄のもとに」など、全6編。

【著者略歴】
浅田次郎 あさだ・じろう
1951年東京都生まれ。95年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、97年『鉄道員』で直木賞、2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、06年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞と司馬遼太郎賞、08年『中原の虹』で吉川英治文学賞、10年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞を受賞。その他、「天切り松 闇がたり」シリーズや、『一路』『黒書院の六兵衛』『獅子吼』など著書多数。日本ペンクラブ会長。






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