『深海の使者』吉村 昭(著) 2016
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木曜日

第二次大戦中、日独伊三国同盟を日本は締結していたことはご存じの通りである。ドイツとの武器や技術情報の相互交換として、海空権・海航権を略奪された中を潜水艦を使ってドイツと日本の間で取引がされていたことが本書に淡々と書かれている。探知機(レーダー)やジェット機の設計書などを日本は欲し、南洋の資源(ゴム、特殊金属等々)をドイツは欲した。如何せん、既に連合国に支配されていた中を数ヶ月を要しながらドイツ、日本を行き来した。加えて、潜水艦の生活様式や雷撃を受けた恐怖や長時間潜行による酸素不足・二酸化炭素充満による身体へ与える影響の描写の鳥肌旋律模様が生々しい。しかしながら、史実として連合国の包囲網により思うに任せられぬまま終戦を迎えたのが実情だ。ヒトラー率いる独裁国であったドイツはユダヤ人大虐殺の汚名はあるものの技術国としては一流であった。日本は一部を除いて技術後進国であった。ジェットエンジンに絡む技術情報の一部を日本はドイツから仕入れたが、少ない情報を元に、「桜花」の実践配備機や「橘花」「秋水」(試作機止まり)を設計・製造した。潜水艦を用いた人・情報の交換は成功率・生存率が極めて微少なことを知りながらも他に方法はなかったのである。(航空による輸送も計画されたが定常化されるには至らなかった)その多くの人や情報が海の藻屑となって海中深く、または意図的に敵国に情報漏洩を秘匿するため海中深く沈められたということを「歴史から学ぶ」こととして日本人、およびドイツ人は胸に刻んでおかなければならないように思う。

深海の使者 (文春文庫)
吉村 昭
4167169495
登録情報
文庫: 427ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2011/3/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167169495
ISBN-13: 978-4167169497
発売日: 2011/3/10

内容(「BOOK」データベースより)
太平洋戦争が勃発して間もない昭和17年4月22日未明、一隻の大型潜水艦がひそかにマレー半島のペナンを出港した。3万キロも彼方のドイツをめざして…。大戦中、杜絶した日独両国を結ぶ連絡路を求めて、連合国の封鎖下にあった大西洋に、数次にわたって潜入した日本潜水艦の決死の苦闘を描いた力作長篇。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉村/昭
1927年、東京生まれ。学習院大学中退。66年「星への旅」で太宰治賞を受賞。同年「戦艦武蔵」で脚光を浴び、以降「零式戦闘機」「陸奥爆沈」「総員起シ」等を次々に発表。73年これら一連の作品の業績により菊池寛賞を受賞する。他に「ふぉん・しいほるとの娘」で吉川英治文学賞(79年)、「破獄」により読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞(85年)、「冷い夏、暑い夏」で毎日芸術賞(85年)、さらに87年日本芸術院賞、94年には「天狗争乱」で大佛次郎賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)






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