『闇を裂く道』吉村 昭(著) 2016
3/21
月曜日

人間ドラマですね。当時の証人がいれば困難に立ち向かうプロジェクトXシリーズ(5夜連続)になったであろう。
大正から昭和初期にかけて掘られた丹那(たんな)トンネル。工事も今ほど土木技術が発達しているわけではなかった。地層的に屈指の難しさを秘めた地盤だった。そして起きた崩落事故。想像してみるとどうだろう。暗闇に、飢えに、寒さに、増す水嵩に、ガスの発生に、酸素不足に、段々と体力も希望も燃え尽きていく。賢明に救助活動に当たる。数日を要して救出される。生存できたことに無上の喜びと家族の安堵、サバイバルを耐え抜いた出来事は記事になる。さも英雄かもしれない。しかし、彼らは一生、暗闇の閉塞地獄の苦しみから逃れられないのかもしれない。(そのような描写はひとつもないが) また、流れ狂う湧水に天井まで押し上げられ、鼻・口を潰しがら藻掻き苦しみ絶命、または何トンもの土砂に押し潰され圧迫死した無念さ。生を渇望したに違いない。遺書の一つも書き残すこともなかった。家族の地獄はずっと続く。

この丹那トンネルは着工から16年【1918(大正7年)~1933年(昭和8年)】の歳月を要し竣工した。

地域住民の丹那盆地の潤沢な水がトンネル工事により涸れ、艱難辛苦の工事を進め、犠牲者も出し、それら歴史背景を知ってしまった。だから、丹那トンネルに潜る機会があるだろうから、その折りは違う畏怖の念、尊敬の感情が僕の中に流水となって流れ出すことは間違いないだろう。


出典:
ウィッキペディア
鹿島の奇跡
http://www.kajima.co.jp/news/digest/mar_2006/kiseki/kiseki.htm


吉村昭氏の本も好きで案外読んでいるようだ。(読書メータより)
  1.白い航跡(上)
  2.白い航跡(下)
  3.間宮林蔵
  4.冬の鷹
  5.零式戦闘機
  6.漂流
  7.大本営が震えた日
  8.ポーツマスの旗
  9.光る壁画
 10.破獄
 11.脱出
 12.仮釈放
 13.わたしの流儀
 14.死顔
 15.黒船
 16.歴史の影絵
 17.三陸海岸大津波
 18.関東大震災
 19.戦艦武蔵

闇を裂く道 (文春文庫)
吉村 昭
4167905507
登録情報
文庫: 515ページ
出版社: 文藝春秋; 新装版 (2016/2/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167905507
ISBN-13: 978-4167905507
発売日: 2016/2/10

内容(「BOOK」データベースより)
熱海―三島間を短時間で結ぶ画期的な新路線・丹那トンネルは大正7年に着工されたが、完成までに16年もの歳月を要した。けわしい断層地帯を横切るために、土塊の崩落、凄まじい湧水に阻まれ、多くの人命を失うという当初の予想をはるかに上回る難工事になった。人間の土や水との熱く長い闘いを描いた力作長篇。






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