『宮本武蔵(全八巻)』吉川英治著 2015
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金曜日

吉川英治が著した「宮本武蔵」全八巻である。これは昭和10年から14年にかけて朝日新聞に連載され、当時は一世を風靡したようだ。史実を踏まえると、青年剣士、二刀流のイメージがある宮本武蔵ではあるが、実存した武蔵の像は多くの部分が創作・誇張され読み物、語り物として説得力・爽快感を成就するための過程で、変化していったのは往々にしてあり得ることだ。現に、吉川栄治氏の本書が昭和以降の「宮本武蔵」像を「理想の日本男児」的イメージを定着させたろうし、日本国民を鼓舞させもし、武蔵の潔さ・強さ・ひたむきさ・辛抱強さ・謙虚さを素の食材に衣を被せるように粉飾させていったのかもしれない。

実際のところ、本書に著された平凡だが努力の人である武蔵、vs伊達男だしお洒落で天才肌の小次郎、そして武蔵を直向に思い続ける美人のお通、幼友達で気弱で優柔不断な又八、そしてお通の許婚であった又八の母、お杉のいびり、また、武蔵の弟子となった実直な城太郎、伊織など、多くの登場人物が物語を攪拌していく。物語の展開で、都合よくあちらこちらで主要人物が出会う。しかし、通信手段や移動手段が貧困な江戸時代、何故にそんなに偶然に主要人物がばったり出会ったり、また目と鼻の先の距離ですれ違ったりするのだろうか。そりゃ、読み物だから割り切りなさい、なのだろう。単純に読み物とすれば、武勇伝あり、色恋あり、怨念あり、母子愛あり、煩悩・苦悩の時期あり、と大盤振る舞いなのである。それもありか。極真空手の創設者、大山倍達が心の師と仰いだらしいが、僕には信じがたい。

宮本武蔵の物語は、吉川英治氏以降にも多くの作家により著されている。司馬遼太郎氏の『真説宮本武蔵(1962)』、『宮本武蔵(1967)』はいつかは読んでみよう。

宮本武蔵(一) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
406196514X
ペーパーバック: 409ページ
出版社: 講談社 (1989/11/1)
言語: 日本語, 日本語, 日本語
ISBN-10: 406196514X
ISBN-13: 978-4061965140
発売日: 1989/11/1
宮本武蔵(二) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
4061965158
文庫: 409ページ
出版社: 講談社 (1989/11/1)
言語: 日本語, 英語
ISBN-10: 4061965158
ISBN-13: 978-4061965157
発売日: 1989/11/1
宮本武蔵(三) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
4061965166
文庫: 409ページ
出版社: 講談社 (1989/11/1)
言語: 日本語, 英語
ISBN-10: 4061965166
ISBN-13: 978-4061965164
発売日: 1989/11/1
宮本武蔵(四) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
4061965174
文庫: 397ページ
出版社: 講談社 (1989/12/5)
言語: 日本語, 英語
ISBN-10: 4061965174
ISBN-13: 978-4061965171
発売日: 1989/12/5
宮本武蔵(五) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
4061965182
文庫: 404ページ
出版社: 講談社 (1989/12/5)
言語: 日本語, 英語
ISBN-10: 4061965182
ISBN-13: 978-4061965188
発売日: 1989/12/5
宮本武蔵(六) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
4061965190
文庫: 390ページ
出版社: 講談社 (1989/12/26)
言語: 日本語, 英語
ISBN-10: 4061965190
ISBN-13: 978-4061965195
発売日: 1989/12/26
宮本武蔵(七) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
4061965204
文庫: 427ページ
出版社: 講談社 (1989/12/26)
言語: 日本語, 英語
ISBN-10: 4061965204
ISBN-13: 978-4061965201
発売日: 1989/12/26
宮本武蔵(八) (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
4061965212
文庫: 379ページ
出版社: 講談社 (1989/12/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4061965212
ISBN-13: 978-4061965218
発売日: 1989/12/26

■第一巻
内容(「BOOK」データベースより)
野に伏す獣の野性をもって孤剣を磨いた武蔵が、剣の精進、魂の求道を通して、鏡のように澄明な境地へと悟達してゆく道程を描く、畢生の代表作。―若い功名心に燃えて関ケ原の合戦にのぞんだ武蔵と又八は、敗軍の兵として落ちのびる途中、お甲・朱実母子の世話になる。それから1年、又八の母お杉と許嫁のお通が、二人の安否を気づかっている郷里の作州宮本村へ、武蔵は一人で帰ってきた。

■第二巻
沢庵のあたたかい計らいで、武蔵は剣の修行に専念することを得た。可憐なお通を突き放してまで、彼が求めた剣の道とは…。だが、京畿に剣名高い吉岡一門の腐敗ぶり。大和の宝蔵院で味わった敗北感、剣の王城を自負する柳生の庄で身に沁みた挫折感。武蔵の行く手は厳しさを増す。一方、又八は堕ちてしまい、偶然手に入れた印可目録から、佐々木小次郎を名乗ったりする。

■第三巻
念願叶って、吉岡清十郎と雌雄を決する武蔵もし武蔵が勝てば、足利将軍師範格の技倆を超え、その名声は一躍、京畿を圧する。――武蔵は思いのままに戦った。だが、武蔵の得たものは心の虚しさであった。

■第四巻
今や、武蔵は吉岡一門の敵である。清十郎の弟・伝七郎が武蔵に叩きつけた果し状!雪の舞い、血の散る蓮華王院…。つづいて吉岡一門をあげての第二の遺恨試合。一乗寺下り松に吉岡門下の精鋭70余人がどっと一人の武蔵を襲う―。

■第五巻
吉岡一門との決闘を切り抜けたことは、武蔵に多大の自信とそれ以上の自省を与えた。そしてまた、大勝負の後に訪れたゆくりなき邂逅。―それはお通であり、又八であり、お杉婆であった。その人々が、今後の武蔵の運命を微妙に織りなしてゆく。山ならば三合目を過ぎ、いま武蔵の行く木曾路、遥かな剣聖を思い、お通を案じる道中は風を孕み、四合目の急坂にかかる。

■第六巻
長い遍歴をともに重ねてきた城太郎は、木曽路でぷっつり消息を絶ち、武蔵は、下総の法典ケ原で未懇の荒野を開拓しはじめた。恃むべき剣を捨て、鍬を持った武蔵!これこそ一乗寺以後の武蔵の変身である。相手は不毛の土地であり、無情の風雨であり、自然の暴威であった。―その頃、小次郎は江戸に在って小幡一門と血と血で争い、武蔵の“美しい落し物”も、江戸の巷に身を奇せていた。

■第七巻
わが国の新聞小説で「宮本武蔵」ほど反響を呼んだ小説はないであろう。その一回一回に、日本中が一喜一憂し、読者は武蔵とともに剣を振い、お通とともに泣いたのである。そしていまひとつ気になる存在―小次郎の剣に磨きがかかればかかるほど、読者は焦躁する。その小次郎は、いち早く細川家に仕官するという。宿命の敵、武蔵と小次郎の対決のときは、唸りをうって刻まれてゆく。

■第八巻
当初、二百回ぐらいの約束で新聞連載が開始されたが、作者の意気込み、読者・新聞社の熱望で、五年がかり、千余回の大作に発展した。一度スタートした構成を途中から変えることは至難だが、さすがは新聞小説の名手。ただし、構成は幾変転しようと、巌流島の対決で終局を飾ることは、不動の構想であった。作者が結びの筆をおいたとき、十二貫の痩身は、十貫台に―文字通り、鏤骨の名作。





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