『ダブリンで死んだ娘』ベンジャミン・ブラック(著) 2014
7/16
水曜日

本書の著者、ベンジャミン・ブラック氏はアイルランドの作家ジョン・バンヴィル(John Banville)の別名義です。『海に帰る日』でブッカー賞(2005)も受賞しています。ジョン・バンヴィル氏の作品も読んでみたいものです。

アイルランドのダブリンを舞台に展開する本書は、ミステリーでのジャンルに入るでしょう。個々の登場人物の抱える生い立ち、背徳感の描写が鋭く抉られていて、僕にはスッと感情移入してしまう部分が多々あります。それは、本来、渇望せずとも自然に手に入れられたものが手に入らず、他人の手に委ねられていることへの焦燥感や葛藤。本書では相思相愛であった二人が、それぞれ相手への想いを断ち切れぬまま、(それなりの理由があって)それぞれ別の人と結婚し、それを未だに引き摺っている、だとか。たとえば、夫の妻が、昔の彼氏を慕い続けていて、その彼氏が身近にいて、その彼氏も女性のことを熱愛していて、夫も妻の気持ちを勘付いていて、でも、三角関係になることはなく、大人としてお互いを尊重しながら日々暮らしている。どうですか、これは三人とも苦しいです。よくもまあ耐えられますね。離婚・再婚で清算するには立場も家庭も安定していて、20年も経った今、冒涜に近しい冒険を侵すには無謀すぎるケース。これは辛いです。

そして、外国映画では頻繁に修道院なんかが登場しますが、日本人には今ひとつ、胎に落ちない場所でしょう。”神に身を捧げる”彼女達は、ほんとうに快楽を葬り去り、精神訓話の世界で生き続けられるのでしょうか。司祭も同じですが、誘惑に弱い僕には無理、絶対無理勘弁してください、です。この部分は本書とは何の関わりもない脱線部分でした。


ダブリンで死んだ娘 (ランダムハウス講談社文庫 フ 10-1)
ベンジャミン ブラック 松本 剛史
4270102853
登録情報

文庫: 488ページ
出版社: 武田ランダムハウスジャパン (2009/4/10)
ISBN-10: 4270102853
ISBN-13: 978-4270102855
発売日: 2009/4/10

内容紹介
1950年代のダブリン
若い女の死の謎を追う病理医が暴いた真相とは!?
瑞々しい感性と巧みなストーリーテリングで世界の注目を浴びた意欲作。

アメリカ探偵作家クラブ賞候補作
ブッカー賞作家がミステリに初挑戦!

[聖家族病院]の病理医クワークは死体安置室の遺体にふと目を止めた。
救急車で運び込まれたクリスティーンという名の美しい女性で、死因は肺塞栓。
明らかに出産直後と見える若い女性が肺塞栓とは?
死亡診断書を書いた義兄の産婦人科マルの行動に不審を抱いたクワークは再び安置室を訪れる。
だが、遺体はすでに運びだされていた!
1950年代のダブリンを舞台に、ブッカー賞作家が別名義でミステリに初挑戦した話題作。

内容(「BOOK」データベースより)
“聖家族病院”の病理医クワークは死体安置室の遺体にふと目を止めた。救急車で運び込まれたクリスティーンという名の美しい女性で、死因は肺塞栓。明らかに出産直後と見える若い女性が肺塞栓とは?死亡診断書を書いた義兄の産婦人科医マルの行動に不審を抱いたクワークは再び安置室を訪れる。だが、遺体はすでに運びだされていた!1950年代のダブリンを舞台に、ブッカー賞作家が別名義でミステリに初挑戦した話題作。







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