『オリクスとクレイク』マーガレット・アトウッド著 2014
7/4
金曜日

人類が滅び去ったわけではないが、地球が崩壊状態に等しいところから話は始まる。何故ゆえに???

地球温暖化、高度な遺伝子操作。新種の動物が野生化し、人間に危害を与え、世の中は人身売買、ポルノ、セックス、ドラッグが蔓延し、世界は無秩序となった。

本書では、親友の二人、人身売買で売られてきた女性が主な登場人物。荒涼とした原始的な生活を送る「今」と、どのような経緯・出来事があって、「今」に至ったのかを現在⇔過去とスイッチしながら話は転がっていく。このテンポが僕には心地よい。

この手合いの崩壊近未来を描いた小説には共通のテーマがある。「食」である。しかし、人間生きていくためには衣食住足りてこそ、つまり「生存要求」が満たされてこそ、人間として文化的、相互扶助的、秩序的な行動・思考ができる。異常気象となり、海面上昇で作付面積は減り、ここに人類を次々と死に至らしめるウィルス感染が意図的に謀られ、人口が減り、そして農耕する人々も激減する。天然の原料・魚肉から供給できる食料は極貧となる。すると、需要>供給となり、行き着くところは、代替合成品、もしくは遺伝子スプライス(結合)した数倍猛スピードで成長する鶏だとかが供給源となる。合成品が本物よりおいしいことはお世辞にもない。例えば、乳から作られたチーズは希少価値であり、それを食すことが可能なのは一部の富豪や、特権階級のごく一握りの人間であり、その他人間は模造品しか口に入らない。近未来地球崩壊小説では共通しているといえよう。

ストーリーの中で、主人公のスノーマン(かつてはジミー)が、荒れ果てた、今は住む人も無く、骸が寝そべる家に忍び込んで食料を漁る。壮絶であることと、人は生きるためにはどのようなことでもやる、やれる、やらざるを得ない強さもある。

僕が感じることは、著者は現代人への「食べること」=「生きること」へのアンチテーゼとして描写し、問題提起をしているのである。警鐘なのである。グルメもいいが、なにかと不味いと言い、食べきれもしない料理を注文することはどうなんだろう、と僕は常々怒っているのである。「食べ物を粗末にする」人々は、崩壊した地球に生き残った場合、「あの時、あれを残さず食べておけばよかった」「まずいまずいとか、言わなきゃよかった」と懺悔しても、『覆水盆に返らず』である。

近未来小説で描かれる日常は、ひょっとすると、近しい将来、このお話がリアリティを醸し出して再現されているかもしれない。いや、十分にあり得ることだと強烈なパワーで押し寄せてくる本である。

こりゃ、読まずに死ねないでしょう。


【スティーヴン・キングが薦める作品から選択】

オリクスとクレイク
マーガレット・アトウッド Margaret Atwood
4152091819
登録情報
単行本: 467ページ
出版社: 早川書房 (2010/12/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 4152091819
ISBN-13: 978-4152091819
発売日: 2010/12/17

内容紹介
人類がいなくなった海辺で、スノーマンは夢うつつを漂っている。 思い出すのは、文明があったころの社会。スノーマンがまだジミーという名前だった少年時代。高校でめぐりあった親友クレイクとかわした会話。最愛の人オリクスとのひととき――。 誰がこんな世界を望んでいたのだろうか。そして、自分はなにをしてしまったのだろうか。 カナダを代表する作家マーガレット・アトウッドが透徹した視点で描き出す、ありうるかもしれない未来の物語。 ブッカー賞、カナダ総督文学賞候補作。 「卓越した想像力で書かれた最高級に魅力的な作品。『一九八四年』をはじめとする、人間の近視眼に警告する名作群に仲間入りを果たした」――タイムズ紙

内容(「BOOK」データベースより)
人類がいなくなった海辺で、スノーマンは夢うつつを漂っている。思い出すのは、文明があったころの社会。スノーマンがまだジミーという名前だった少年時代。高校でめぐりあった親友クレイクとかわした会話。最愛の人オリクスとのひととき―。誰がこんな世界を望んでいたのだろうか。そして、自分はなにをしてしまったのだろうか。カナダを代表する作家マーガレット・アトウットが透徹した視点で描き出す、ありうるかもしれない未来の物語。







Copyright (C) 2014 Shougo Iwasa. All Rights Reserved.