『グローバリズム出づる処の殺人者より』アラヴィンド アディガ (著) 2014
6/30
月曜日

昔、椎名誠の「わしもインドで考えた」のルポ&エッセイを読んだことがある。庶民はガンジス川ですべての生活を営み、荼毘されてはガンジス川を流れていく。体を洗い、歯磨きもし、糞も垂れ、水牛も水浴びをする。不衛生極まりないし、コレラや風土病も蔓延している。また、タイトルは忘れたが、TVのクイズ番組で勝ち上がっていくインド映画があった。貧乏な少年が幼少期をどのように過ごしながら、成長していくのか、どん底の対比として、都会では土地が整地され、猛烈な勢いで超高層マンションが聳え立っていく。本書を読みながら、この映画の情景が思い浮かんできた。このインドの恥部、底辺の底辺、カーストの枠組みは変わっても、廃止されたといえでも、貧乏人が貧乏から抜け出すことは奇跡に等しい。太った裕福層、痩せた貧困層、金持ちは使用人、奴隷として当然の如く貧しい人々を支配している。それかと言えば、映画「マハラジャ」のキラキラ衣装で踊るダンス、脳裏に焼きついてしまうメロディは皆さんも記憶に刷り込まれているだろうが、それとのギャップは如何ともし難い。それは、どれもがインドであって、カオスワールドを醸し出しているのだろう。いえいえ、混沌という言葉で片付けるほど、僕はインドを知らないのだから、判ったような感想を述べてはいけない。数年でもインドの貧困生活を、身をもって体験すれば理解できるだろうか。否、絶対無理無理。
例えば、子供は自分の誕生日も知らないし、名前もない子供も多い。親が覚えていない、または貧乏で名前をつける暇がなかった。信じられる? これも現実のひとつ。

IT分野で急成長を見せるインド、私もIT企業の社員であるから、オフショア開発を発注するとして、コスト削減の優位性はある。しかし、言葉の壁、納期に対する認識の相違などクリアーしないとならない課題もあることは肌身に感じる。

本書の主人公「バルラム」の行動が、作者の体験してきたことの事実がリアリティを生んでいる。とんでもない勢いで、鉈を頭に振り下ろされるかのようなインパクトがある。脳天直撃か。「インドに生まれなくて良かった」なんてほっとする自分もいるし、しかし、ヒンドゥ教の輪廻転生の教えで、来世はインドの貧しい子供として生まれ変わっているかもしれない。それは、僕の今世の行為(カルマ)次第で、来世の宿命が決まるとするのなら、既にインド貧困層予備軍となるのは間違いがない。
<光>と<闇>を抉り出したブッカー賞(2008年)受賞作品。ただものではない。

【スティーヴン・キングが薦める作品から選択】

グローバリズム出づる処の殺人者より
アラヴィンド アディガ Aravind Adiga
4163275606
登録情報
単行本: 319ページ
出版社: 文藝春秋 (2009/02)
ISBN-10: 4163275606
ISBN-13: 978-4163275604
発売日: 2009/02

商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
グローバリズム出づる処、インド、バンガロール。ひとりの起業家が、書を民主主義が没する処の天子温家宝に致す。「拝啓中国首相殿、あなたに真の起業家精神を教えましょう。主人を殺して成功した、このわたしの物語を」IT産業の中心地から送った中国首相への手紙は殺人の告白であった―。ブッカー賞受賞作。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
アディガ,アラヴィンド
1974年、マドラス生まれ。現在ムンバイ在住。コロンビア大学のコロンビア・カレッジで英文学を学んだのち、経済ジャーナリストとしてのキャリアを開始。フィナンシャル・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなどに寄稿し、南アジア特派員としてタイムに勤務する。はじめての小説作品である『グローバリズム出づる処の殺人者より』で、2008年度のブッカー賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)







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