『光る壁画』吉村昭著 2014
3/12
水曜日

オリンパスが戦後、胃カメラを開発した契機、開発までの苦汁の道程を書き綴ったものである。発明とは、タイミングというものと、それに情熱を傾ける関係ステークホルダーが同じベクトルを向いてこそ達せられるものである。「やってみましょう」「やらせてください」と。この段階では”海のものとも山のものともつかぬ”状態なのであるから、損得抜きなのである。考えていたら、リスクが有りすぎてやらない。そこが技術者的、職人的な意地・前向きさが潔い。本書で言えば、5mmのレンズを磨く職人、照明ランプとなる電球メーカの試作に継ぐ試作の嵐。技術者の執念、いい物を創りたい一念、そのコダワリには胸を打たれる。これは共通的と思われるが思案・絶望・挫折に砕けかけた技術者には、成功に結びつく偶然も味方に付けてしまうことがある。神が味方する神がかりとは言わないが、執念が偶然を授けてくれることもあるわけで、本書の胃カメラ開発が頓挫しかけ、水泡に帰すようなどん底に達したとき、光明を見出した「胃カメラ」の窮地を救ってくれた”その偶然”とは。(秘密秘密) こういうこともあるものなんだ、感嘆してもいいのでしょう。

オリンパスの開発経緯はこちらが参考になります。 VOL.2 胃カメラの誕生

光る壁画 (新潮文庫)
吉村 昭
4101117179
登録情報
文庫: 313ページ
出版社: 新潮社 (1984/11/27)
ISBN-10: 4101117179
ISBN-13: 978-4101117171
発売日: 1984/11/27

内容紹介
胃潰瘍や早期癌の発見に絶大な威力を発揮する胃カメラは、戦後まもない日本で、世界に先駆けて発明された。わずか14ミリの咽喉を通過させる管、その中に入れるカメラとフィルム、ランプはどうするのか……。幾多の失敗をのりこえ、手さぐりの中で研究はすすむ。そして遂にはカラー写真の撮影による検診が可能となった。技術開発に賭けた男たちのロマンと情熱を追求した長編小説。







(2014/03/12 21:08)


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