『ジェラザード』浅田次郎著 2012
11/29
木曜日

大東亜戦争時の金塊を積んだ弥勒丸(みろくまる)が沈没した。何故か、どのような経緯があったのか。その弥勒丸を引き上げたい男がいた。それは誰なのか。そのために誰を動かせばいいのか。現代と過去をフラッシュパックさせながら、それぞれの登場人物が回想しながら、もしくは第二次世界大戦時代の当時を再現させながら話は進展していく。

相変わらず、浅田二郎氏は歴史小説家としての調査能力は脱帽する。本来、日本国が描いた大東亜圏、東南アジア諸国を植民地から解放させたい想いもあった。日本の国力からして、世界、アメリカを相手にして戦うことは適わぬことで、初戦の状態で講和に持ち込むことだったし、開戦前にも、開戦初期にも、多くの人が水面下で、’何としても戦争を食い止めるため’に動いたことは事実だ。一縷の望みも潰えたのだった。

「良心」も通じぬ戦というもののおろかさ、はかなさは何なのか?
軍人、民間人、占領地の庶民、それぞれの人にもたらす失望感と悔やみきれない懺悔の念は、戦後生まれの僕には推し量ることも出来ないのだろう。

アメリカは国力にモノ言わせ、太平洋を島伝いに飛ばしながら、日本の占領地を奪回していった。フィリピンが陥落し、再びアメリカの手に落ちた。もはやマレーシアに駐屯する陸軍の存在価値は無かった。海軍は制空権、制海権も既に失っており、両手両足をもがれた赤子も同然だった。前述の弥勒丸は十中八九、沈没させられる状況にあった。赤十字の任務を背負い、攻撃されることのない安道券を手に入れていた弥勒丸であったにもかかわらず、何故に、何故に二千三百名の軍人・民間人・船員が金塊を積んだまま、海の藻屑となったのか?

あらあら、読みたくなってきましたね。

日本人として、
「良心」、「真っ直ぐな生き方とは何なのか」を問う。
誰しも心のうちに多かれ少なかれ、取り返したい過去がある。
されど、過去を悔やみ懐かしむだけでは何か生まれるのだろうか?
否、生まれない。生まれるはずがない。
生きている今をどうするか、どう生きるか、について読者そぞれに再考させる小説だ。

最後にストーリーを再説明していくクダリは不要だな。せっかく、そぎ落とされた鋭角な文章がサスペンスドラマの種明かしのような体たらくなものになっているのが残念ではある。


シェエラザード(上) (講談社文庫)
浅田 次郎
4062736098

文庫: 384ページ
出版社: 講談社 (2002/12/13)
言語 日本語
ISBN-10: 4062736098
ISBN-13: 978-4062736091
発売日: 2002/12/13

シェエラザード(下) (講談社文庫)
浅田 次郎 吉野 仁
4062736101
文庫: 392ページ
出版社: 講談社 (2002/12/13)
言語 日本語
ISBN-10: 4062736101
ISBN-13: 978-4062736107
発売日: 2002/12/13

内容(「BOOK」データベースより)
【上巻】昭和二十年、嵐の台湾沖で、二千三百人の命と膨大な量の金塊を積んだまま沈んだ弥勒丸。その引き揚げ話を持ち込まれた者たちが、次々と不審な死を遂げていく―。いったいこの船の本当の正体は何なのか。それを追求するために喪われた恋人たちの、過去を辿る冒険が始まった。日本人の尊厳を問う感動巨編。
【下巻】弥勒丸引き揚げ話をめぐって船の調査を開始した、かつての恋人たち。謎の老人は五十余年の沈黙を破り、悲劇の真相を語り始めた。私たち日本人が戦後の平和と繁栄のうちに葬り去った真実が、次第に明るみに出る。美しく、物悲しい「シェエラザード」の調べとともに蘇る、戦後半世紀にわたる大叙事詩、最高潮へ。



(2012/11/29 21:27)

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