『戦時下の青春』 2012
6/4
月曜日

ブログで書いた『女性たちの戦争』(2012.5.19)とシリーズ的な本書は、『女性たちの戦争』を一回りも凌ぐ壮絶な書きっぷりに脱帽し、且つ、読み進めるには莫大なエネルギーを消費し、全身が脱水させられるほどのパワーのある本だった。

戦時中の大空襲で焼夷弾が炸裂する中、疎開を余儀なくされた家族の出来事を綴った話。

焼け野原を、空襲をかいくぐり、さ迷いながら生き延びた特別戦闘隊(本土に米軍が上陸する際、手榴弾を持って戦車の下に潜り込む役割)の中学生の話。

母が空襲で死に、幼い妹と兄で生き延びようとする話。しかし、妹は餓死、兄も衰退して餓死してしまう。遠縁の親戚に惨い仕打ちを受け、家をとび出す。妹を救うため盗みを働かざるを得ない状況に追い込まれていく。しかしながら、身体は衰弱し、終局は野垂れ死にしてしまう。毎日、何十人もが路上で野垂れ死にしていた。誰もそのような光景を異様と感じる感覚も麻痺していたのだろうか、あまりの数の多さに国民も手の施しようがなかったのだろうか、自分が生きることで手一杯の時代、他人まで救う余裕もなかったのだろうか。

その他、諸々の短篇が言霊のように語り掛けてくる。

なんというのでしょうね。これら作品はリアルすぎて怖いです。作家自身の体験談あり、心を揺さぶる心情描写、戦争知らない僕だけれど、このような出来事は体験したくはないと慄きながらも、時に、これが終戦間際(昭和20(1945)年)の日本国内で起きていたことなんだ、と客観的沈着冷静に受け止めておくことは必要だろうし、読み継がれていってほしいと渇望する。

一様に「大空襲」で夜空が真紅に染まる光景が美しい、と。
これも何なのでしょうね。
このように感じるというのは。

生々しいながらも、作品によっては涙が溢れ出るばかりなり。
是非、一読していただきたい本書です。


戦時下の青春 (コレクション 戦争×文学)
中井 英夫 小林 勝 石川 淳 太宰 治 井伏 鱒二 池波 正太郎 坂口 安吾 結城 信一 内田 百閒 古井 由吉 高井 有一 前田 純敬 吉行 淳之介 野坂 昭如 井上 靖 三浦 哲郎 江戸川 乱歩 井上 光晴 高橋 和巳 上田 廣
4081570159

# 単行本: 736ページ
# 出版社: 集英社
# 発売日: 2012/3/5

【内容紹介】
炎上する街に潜む、蒼く凄まじき生。

永井荷風、坂口安吾、江戸川乱歩、池波正太郎ら、多彩な作家陣による名作、傑作、問題作によって、銃後の凄惨な生活の中にも息づく若者たちの青春、庶民のしたたかな生の姿を活写した本格的試み。戦況炸裂するガダルカナル兵士からの詩集、不良で通しながらも純粋な生き方を貫く女性。


<『戦時下の青春』収録作品>
1.中井英夫 『見知らぬ旗』
2.小林勝 『軍用露語教程』
3.吉行淳之介 『焔の中』
4.三浦哲郎 『乳房』
5.江戸川乱歩 『防空壕』
6.井上光晴 『ガダルカナル戦詩集』
7.高橋和巳 『あの花この花』
8.上田廣 『指導物語』
9.永井荷風 『勲章』
10.川崎長太郎 『徴用行』
11.石川淳 『明月珠』
12.太宰治 『薄明』、『たづねびと』
13.井伏鱒二 『疎開記』、『疎開日記』
14.池波正太郎 『キリンと蟇』
15.坂口安吾 『アンゴウ』
16.結城信一 『鶴の書』
17.内田百 『その一夜』
18.古井由吉 『赤牛』
19.高井有一 『櫟の家』
20.前田純敬 『夏草』
21.野坂昭如 『火垂るの墓』
22.井上靖 『三ノ宮炎上』








(2012/06/04 21:39)


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